20話 ロバルの街
荷物をボロボロと落としながら、馬車を走らせる商人達。その荷を俺達は拾いながら後をつけたが、思いのほか早く商人達の馬車に追いつく。見えてくると、彼らの馬車は車輪が脱輪して動けなくなっていた。
皆で慌てるように車輪を直していたが、俺達を見ると慌てるように命だけはと命乞いやら逃走を繰り返した。その後、どうにか俺が“落ち着いてください”と話しかけつつ、バケログテやミダリさんが“面倒だから始末するか?”と訳の分からない展開になりながらも、時間を費やして話しになった。
「いや、そうでしたか!本当にお恥ずかしい!ほら、お前らのせいだぞ!」
「すいません、そんな事情だとは思いもせず……」
「いえいえ、こちらも説明しなかったのも悪いですから」
その後時間をかけて説明した。要約するとこちらがお家騒動中で大変だと理解したと。聞くとこういう“跡取騒動”は良くある世界らしく、襲われたから殺しても良いというルールがあるらしい。なんだか怖いな。
「魔導師殿、まぁ怖いが、暗殺ならまだ良いほうですよ?北部のベガデム家なんか10年も前から領地内で兵を率いて争ってますしね。国王も勝ったほうが領主だって言い切ってますし。まぁ、こっちはどちらに品を卸すかで大変ですけどね……」
商人のラデムさんはそういうと苦笑いをする。
それってこの国は国として成り立ってるのだろうか?いや、感覚が前世の世界とは違うのか。荷を戻したり、馬車の荷台上げを手伝いなら、走れるようになった彼らの馬車と我々は街道を西に向かう。
猛烈なレースで街を1つ飛ばしてロバルの街まで日が暮れるまでには着くだろうと彼らは言う。そのまま俺達は彼らの馬車についてロバルの街へ向う。
夕方近くに“あれがロバルよ”というミリーデ声で先を見ると。遠くからも分かる程に高い石壁に囲まれ、まるで要塞のような街が見えた。
「親戚がロバルにいるから、まずは挨拶に行くわよ!」
ミリーデが仕切ってくる。そのまま説明を聞くとロバルの街にはミリーデの親戚、ギリード伯爵がおり、ロニテア王国で傭兵や“なんでも屋”の冒険者の取り纏めをしているという。傭兵は戦時の時に利用され、通常は冒険者として魔物を狩り、生計を立てているという。
「ミリーデ、誰でも傭兵や冒険者になれるのか?」
「そんな事は知らないわよ」
俺達は身元を証明するものがない。ここまではミリーデに運よく山に住む蛮族と勘違いされて、ここまで来れているが、ロアン帝国のように“こいつ魔族だ、殺せ!”とか追い立てられる可能性が無いとは言えない。そんな事を考えながら気がつくとロバルの街の門前まで来る。門の脇や石壁の上に数名の弓矢や槍を構えた者が警備しており、彼らが街に入る馬車を止めて確認している。その時、兵がこちらを見て駆け足で近づく。
物々しい警備に緊張していると、ミリーデがなに緊張してるの?と言ってくるが、横にバケログデさんとミダリさんがボロークを寄せて小声で話しかけくる。
「バデール、念の為だ……こっちに乗れ」
俺は無言で頷き、ミダリさんの乗っているボロークへ移動する。もし我々が不審者、いや魔族だと言われた場合、掴まるか逃げるしかできない。
槍で武装した兵は近づくと、窓からミリーデが顔を覗かせて声を上げる。
「エッツオ家、ミリーデです。通してくださいな、それと、この者達は護衛です」
俺達を指差すミリーデを見て兵は“承知しました”言うと門へ向って合図すると数名がぞろぞろと我々を囲い、こちらですと案内をする。
商人さんはこちらを見て手を振り別れを合図する。
「エッツオ家お嬢様!魔導師殿!我々は東門近くでラデム商会という店を構えてますから!いつかまた!」
我々は軽く会釈し、兵に案内されて、門を潜り外の草原と違い賑やかな通りを進むと、街の中心にある大きな建物へどんどん案内されていく。
馬車を止めると、今度は金属製の鎧を身に着け剣を装備している兵がズラズラと出てきて、グレーブさんを残して俺達4人で建物へ更に誘導されるように案内をされる。
ミリーデはこちらを向いて笑顔で言う。
「さぁ、ギリード叔父様に挨拶よ!」
「おい、バデール……大丈夫か?俺達?」
「分かりませんよ。たぶん大丈夫じゃないですか?」
「あの鎧、良い鍛冶屋がいるな……」
不安そうなミダリさんと鍛冶屋の性分か鎧が気になるバケログデさんと小声で話しながら、俺達は建物の中に案内されていく。
「ギリード叔父様!お久しぶりですわ!」
「おお!ミリーデ、暫く見かけないうちに綺麗になったのう」
「あら、お世辞が上手いですわ」
赤い絨毯に豪華な部屋……ではなく、荒削りな丸太のテーブル。壁に剣や斧が、それと何かの見た事のない獣の剥製の首が“これでもか”と飾ってある部屋に案内されると老いた大猿が鎧を着ているような人物とミリーデが親しそうに会話をする。
その者は?と大猿がこちら見ながら言うと、ミリーデが紹介をしてくる。
「途中に雇った護衛ですわ。こう見えても腕は立ちます」
俺は作法も分からず、とりあえず頭を下げる。横にいるふたりは棒立ちで片手を上げるだけ。うん、村で挨拶はそれが普通だしね。仕方ないね。
「ほう!魔導師を!あー、よいよい、それよりエッツオ家の連れはどうした?」
「それが……暴漢に襲われて……」
沈黙の後、ミリーデに疲れただろうと背に手を回し兵に彼女を預けるように言う。
「ミリーデや、長旅は疲れただろう、部屋を用意するから、まずは休むといい。それとその……護衛の魔導師殿、少し話しを聞かせてくれまいか?」
ミリーデが出て行くと、俺達は座るように言われ無骨なテーブルに大猿を向かい合って座る。
「余計な気遣いは不要だ……それに何があった?」
説明面倒だと思いながら、俺はデルダルさんの手紙を荷物から出して、横にいる兵に渡す。
手紙を大猿が受け取り、2通の手紙を広げて読む。
「この手紙、ミリーデは見たのか?」
「失礼ながら事情を察して、見せてはいません」
「我らの恥ずかしいものを見せたな。だが、そこまで察してくれるというのはどこかの貴族の血筋か?」
俺は、なるべく言葉を選んで、山間の村で育ち襲われて散った同郷の仲間を探しておりますと伝える。彼は一瞬考えるような表情をしてから口を開く。
「ふむ、そうか……ここは野蛮なロアン帝国でない。安心してくれ。血筋のミリーデをここまで案内してくれたお礼とは言えるか分からんが、僅かばかりだが費用と、ワシが身分を保証して冒険者組合に一筆書いてやろう。それを持っていくがよいだろう」
彼が紙を出してなにやら書くと、俺に渡す。
「それと、ミリーデだが、明日には魔法学校に入れる予定だ。学校は安全だからな」
その日、俺達はギリード伯爵の家に泊まらせて貰い、翌日、魔法学校へとギリード家の人間と向かう。
「バデール!いい?困った事があれば、エッツオ家の私に頼りなさい!」
「可愛いのうミリーデは。まぁワシの家にとりあえずは来い」
前世の映画や小説で想像していた魔法学校とは違い、なにかの基地みたいな入り口で俺達は最後の護衛を終わらせた。




