12話 魔導師ですか?
俺達はこの先にあるワニズミの村へ向った。俺は何故か箱馬車で、バケログテさんとメダリさんは盗賊達の馬に乗って馬車に並んで進む。執事のデルダルさんによると、この馬はボロークという種らしく、従順なので、誰でも乗れますよ?ということで、ふたりは無言だったが、興味を持って乗る事になった。
また護衛の男性も馬に乗ってバケログテさんとメダリさんに何か話しかけて、仲良くしようとしているが、時々、“うるせぇ、黙ってろ、殺すぞ?と怒鳴る声が聞こえる。人族とは簡単に打ち解けないだろうなと思いながら、箱馬車の窓から俺は見ていた。
俺は箱馬車の中で、ミリーデとぎこちなく会話を続ける。彼女達は西にあるニーミの街で数日滞在し、更に西にあるロバルの街へ向うという。ロバルの街へは彼女の故郷から1ヶ月以上の距離で、現在、この旅は10日目だという。
彼女の目的はロバルの魔法学校入学するために向っているという。魔法学校というのがあるのですね?と聞くと嬉しそうに、この国では、魔法の才能がある者は優遇されて国が育てるために入学するという。そして卒業生は王宮魔法省に入れるというエリートコースだという。
しきりに魔法学校や魔法使いについて、熱っぽくミリーデは語るが、俺はまったく興味がないが、相鎚を打って聞く。とりあえず判ったことは、ここがロニテア王国ということは判った。ロバルの街は魔法学校があるくらいで、魔法や魔族に関して何かしらの情報があるだろう俺は勝手に想像した。
1刻もしないうちに、俺達はワニズミの村にたどり着く。俺達がいた村より家屋が多く、聞くと500人ほどが生活する街道沿いの宿村とミリーデは言う。
「ミリーデ……さん?泊まるにしても俺達は金が無いですよ?」
「安心しなさい!雇ったからには面倒は見てあげるわ!」
「は、はい……そうですか。お願いします」
盗賊の荷物で幾らかお金になりそうなものは、拝借してきたので、どこかで売れるだろうか。それとも盗賊の死体でも持ってくればよかっただろうか?まあ面倒見てくれるってならいいか。
_____________________________
「うお!こいつは美味いな!おい!バデール!こいつを喰ってみろ!森兎より美味いぞ!」
「ああ、うめぇな!おいバケログテ!そこの酒取ってくれ!」
「おいおい!メダリ、これは俺の分だ!」
「なんだと!」
「まあまぁ、お二人、追加で頼みますから」
泊まる事になった宿の1階、30人程が入れる食堂で、ガツガツとバケログテさんとミダリさんが、荒々しく出された食事と酒に喰らい付く。
「おい!バデール!これ食えよこれ!すんげぇ、うまいぜ!」
口からバンバン飛ばしながら、俺の口へ何かの骨付き肉を入れてくる
「うごぉ……ごってぇにひゃくのくち……これ、うあいですね」
俺はモグモグと食べる。前世のコンビニの辛いチキンのようだ。
「もう、アンタ達、魔法使いの格好してるだから、もう少し上品に食べなさいよ!」
「お嬢様、彼らは本当に豪快ですな」
執事のデルダルさんが、ふほほほと笑いながら、手を上げて給仕に追加の酒を頼む。俺も飲んでいるが、生ぬるいビールのような液体だ。聞くとアガエのエールというらしい。
「すごいですね!バケログテさんとメダリさんは、その食い方が強さの秘訣ですね!」
護衛の男性が、荒々しく喰う二人を見て呟く。その言葉を聴いてぴたりと二人は食べるのを辞めて、ダゲーラさん向って口を開く。
「それ以上、俺達に話しかけると、その口を使えなくしてやるぞ?」
バケログデさんが小声で呟くと、ダゲーラさんは“ひぃ”と言ってエールを飲む。
「あのね?魔法使いってのは……ローブを着た魔法使いってのは、選ばれた民なのよ!そんな下品な食べ方をしないの!」
「おい、お嬢さん、おめぇも黙ってろ」
「なによ!今は私が雇い主なのよ!」
「雇われたつもりはねぇよ」
バケログデさんとミリーデが、言い合ってるが、面倒になったのか、バケログデさんが途中から無視して、酒を飲み続ける。ミリーデが言うには、ロニテア王国に攻撃魔法を使えるような魔法使いは数百名程しか居ない。確か人族は1000人に1~2人が使える者がいるかどうかという事を聞いたが、それが故に選ばれた民なのか、身分が高く、作法も上品だという。確かに、このふたりの食べ方は上品とは言えないが……。
この食堂には剣や武器をテーブルに立てかけている怖そうな人が多く見える。彼らは?とミリーデに聞く。
「魔物を狩ったり、危険な依頼を受けて仕事してる”何でも屋”ね。冒険者とも言われているわ」
ほう……と観ていると、近くのテーブルの厳つい顔をして男5人が、俺と目が合い、聞こえるように言う。
「魔法もロクに使えないだろうに、ローブを羽織って強そうにみせるアホが!食べ方でわかるぜ!」
「ああ、恥ずかしいな、どこの田舎もんかね!」
「がはは、そうだな、恥ずかしいぜ」
「ミガー!お前も明日からローブ着ろよ。魔法を使えそうに見えて、強く見えるかもな!がはは!」
あれ?これは馬鹿されてるのか?と思いつつ。回りのテーブルを見れると、その様子を皆が笑って見ている。なんだこの気まずい状況は。
「聞こえねぇのか?このアホども?」
隣のテーブルの男が、食べていた骨をバケログテさんに投げつける。その瞬間、バケログテさんが立ち上がり、その男を睨みつけたと思った瞬間、あっという間に、彼の傍に移動して、左手1本で首を掴み持ち上げていた。
「がぁ……お前……」
“てめぇ!このやろう!”と同じテーブルの男達が剣を掴み立ち上がる。持ち上げられた男はもがくが、そのままバケログデさんは右手の先に炎の玉を出す。あれ?バケログテさん、そんな火魔法が上手かったか?ひぃひぃ男が言う。ミダリも立ち上がり両手に炎をメラメラ揺らして、こいつら灰にしようぜと物騒な事を言い始める。男は顔の近くに炎が来たときに、ひぃぃと叫び気を失う。
「バケログテさん!ミダリさん!ここじゃダメです!」
俺は叫び、指から水と風を混ぜて、二人の火魔法を打ち消す。
一瞬の沈黙の後、同じテーブルの男達は青ざめて、掴んでいた剣を手放し、魔導師様すいませんと床にひれ伏す。ふと周りを見回すと食堂は沈黙に包まれていた。
「もう、兄貴ったら!魔導師だったんなら、先に言ってくださいよぉ!」
「そうですよ!もうその荒々しい喰いっぷり!惚れました!」
「さぞ高名な魔導師様なんでしょ!ああ……こちらどうぞどうぞもう一杯!」
「アニキ!ささ、この料理も美味いですよ!」
バケログテさんとミダリさんは、食堂にいた冒険者に囲まれて、もてなしと受けている。絵図を見てるだけだと、悪い悪党のボスだ。もともとバケログテさんは見た目怖いしね。時々、“黙ってろ、殺すぞ“とか聞こえるが、俺は無視する事にした。
「まったく……魔導師の品位が下がるわ」
ミリーデは隣で落ち込むように言う。
「魔導師ってなんです?魔法使いじゃ??」
「本当に山奥育ちね……魔法を極めた魔法使いは魔導師って言われるのよ。魔法が使えるって言ったって指先からちょろっと火を出せればいいほうなのよ。瞬時に火の玉とか出せるとなれば、それはもう魔導師級なのよ!それが下品な振る舞いって……」
暫く経つと、バケログテさんとミダリさんは飲みすぎたのか、もう寝るといって泊まることになった部屋にドガドガと酒を持って2階に向っていった。
その後、取り残された俺は周りの冒険者から“坊ちゃん!この後どこいくんですか!”とか“俺らも一緒に”と何故か取り囲まれて脱出するのに時間が掛かった。




