*形勢不利
「……」
健吾は、画面を見つめて呆然としていた──そこに映し出されている影の数に言葉が出ない。
「相手はこれ……気がついてるのかな」
考えながら立ち上がり、開いた窓から空を見上げる。心地よいそよ風が、青年の頬を優しくなでていく。
まだ11時を回った空は晴天で、うたた寝でもしてしまいそうなほどの陽気だった。
「……」
コーヒーカップを手に持ち、まどろむように目を細める。
同時刻──暗めのスーツを着た男が、高級住宅街を歩いていた。
鋭い眼差しはどこを見るでもないようなそれでいて、何かを探しているようにあちこちに向けられる。
「!」
そんな男の視界に2階の窓に影が映し出され、それにひどく反応した。そして電柱の影に身を潜め、無線を取り出す。
「見つけました。はい、奴を逃がした時に見た男です」
通話を終え、その人影に険しい目を向けた。
しばらく空を見上げた健吾は、
「さてと……ゆっくりしてる場合じゃないね」
伸びをして椅子に腰掛けた。
そのとき──
「な、なんだね君たちは!?」
「?」
ドアの向こうから聞こえる家主の声と数人の足音、そのすぐあとに健吾のいる部屋のドアが勢いよく開かれた。
「!?」
驚いて立ち上がる彼を5人ほどの男たちが囲み、睨み付けながら見下ろした。
「大人しく来い」
「!」
健吾は、発した男の顔に見覚えがあった。確か足を撃たれたはずだが、スーツの上からでは窺い知れない。
健吾は逃げられない事を悟り、小さく溜息を吐き出してうなだれた。
大賀邸にいるベリルたちは、ヘッドセットから聞こえた音と声に険しい表情を浮かべる。
<見つかっちまったみたいだな>
「そのようだ」
暗闇の中で応える声は低い。
<どうする>
「……」
数秒ほどの沈黙のあと、
<しばらく様子を見る>
「アイサー」
返ってきたベリルの指示に応え、泉は再び駆けだした。彼の向かう場所は居間だ。
「ふむ」
指示のあと、ベリルは思案していた。
彼が隠れている場所は床下だ、細身のベリルにはこの豪邸は十分なスペースがある。頑丈な造りだが、木造家屋は振動が伝わりやすい。
大人の男が走り回るのだ、ベリルにはそれだけで大体の状況が判断可能である。
居間──
「仲間なのは確実か」
アルジャンは目を細め、泉がこちらに向かっているという報告を受けて口の端を吊り上げた。
奴らの仲間を確保した、形勢はこちらが一気に有利となった。
仲間たちは、ベリルを恐れている。奴を捕らえれば、俺の名声は上がるだろう……そう思うと自然に笑みがこぼれた。
身動き出来なくさせればこっちのものだ。とりあえず、仲間たちからの忠告で麻酔薬や睡眠剤も用意している。
捕まえたあとは眠らせておけと言われているためだが、目覚めていればそれだけ危険という事に二の句が継げなかった。
回し蹴りの一発でダウンしてしまいそうな細腰の奴を相手に、どうしてそこまで警戒しなければならないのか半ば腹立たしささえあった。
今まで奴とは相まみえる機会が無かったとはいえ、それなりに盗賊の世界では名の知れた自分が、たった1人の傭兵ごときを恐れているなどとは思いたくないのだ。
そんな屈辱も兼ねて、どう奴をいたぶってやろうかと口角を吊り上げた。





