*準備はOK?
深夜──健吾はリビングでヘッドセットのマニュアルを読みながら、手にあるそれをいじっていた。
潜入しない彼のヘッドセットは、2人のものよりやや大きめだ。動く事もあまりないので、ヘッドセット自体に付いているボタンの他に外部接続されているボタンがつなげられている。
素人が見えないボタンを操作するのは難しいということで、少しでもストレスを無くすためらしい。
どのボタンがどういう操作になるのかをタックシールに書いて貼ってくれたベリルさんは気が利くというか……気配りが凄いというか、それが自然に出来るんだから感心する他はない。もちろん、日本語で書いてくれた。
これから準備する監視モニターについても、解っている事だけ簡単に書いた紙も渡してもらい、健吾は2人の帰りを待っていた。
彼らはカメラの設置に向かっているのである。
高級住宅街には高い建物は少ない。電信柱を探して取り付けたりするんだとか……電信柱は設置に適しているとも言っていた。
そこから電気を供給出来るので外部電力を取り付けなくていいからだそうで、
「電力会社に見つからないの?」と尋ねたら、微弱だから放電程度にしか思われないんだそうな。
ついでに、簡単に撮影したヘッドセットのCCD映像も見ている。端末の方にブレ補正があるけど、やっぱりどうしてもブレは取れない。
慣れていないと気分が悪くなるから、今のうちに慣れておくように……って、軽く撮影したものを渡してくれたんだけど、
「うう、気持ち悪い」
再生を止めて炭酸飲料を口に含む。
2人の映像だけど、気持ち悪くなりながらも動きの特徴は掴めてきた。泉さんの動きはなんていうかスパッとしてるというかワイルドというかだけど、ベリルさんは流れるような動きで、見やすいのはベリルさんの方だ。
滑らかに動いてるから映像はそんなにブレてない。
「まだ時間があると思っちゃだめだよなぁ」
ホットコーヒーを作ってソファに腰掛け、見取り図を手にしながらテレビ画面の衛星画像と見比べていく。
明日は大賀邸の近くに部屋があるかどうかを探すらしいけど、高級住宅街にマンションやアパートなんかあるのかな?
「健吾」
「ん……。ハッ!?」
ベリルの呼ぶ声に、勢いよく上半身を起き上げる。いつの間にかソファで寝てしまっていたらしい……外はすっかり明るくなっていた。
「おはよう」
「あっ、お、おはようございます」
どうしてか敬語になってしまう。若いのに凄く貫禄があるんだもん……
「ベッドで寝た方が良い」
「あ、はい……ベリルさんも寝るんですか?」
「私はまだやる事がある」
「寝なくて大丈夫なんですか?」
問いかけている間にお湯が沸き、ダージリンの香りが鼻を刺激した。
「慣れている」
さらりと告げ、ティカップを手にソファに腰掛けた。
それをしばらく見つめたあと、我に返ったように頭を数回ほど振って立ち上がる。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
数時間後──健吾は目をこすりながらリビングに戻ってくる。
ソファで眠っているベリルを見つけて静かに近寄った。この部屋にはもちろんベッドが2つあるが、彼もつい眠ってしまったのだろう。
そう思うとなんだか少し嬉しかった。
人としての普通の部分が見える、ということが嬉しいというのも変な話ではあるのだけれど……それほどに、自分とはかけ離れすぎている彼のこういう姿に安心感を覚える。
「……」
それにしても綺麗だよなぁ、と寝顔を見下ろす。
さすがに化粧をしていない素の状態で女には見えないんだけども、ふとドキリとする時がある。なんて言えばいいのだろう、中性的な魅力とでもいうのだろうか。
こう、ゾクリとする一瞬があったりする。
「ん……。はあぁっ!?」
健吾はガバッ! と顔を上げた。
いつの間にか寝てたぁ!? 彼の寝顔を見ているあいだに、ソファの肘掛けにもたれて寝てしまったようだ。
部屋を探しに行ったのだろうか、その彼の姿はとうにない。
「なにやってんのかな僕……」
溜息を吐いて、ふと気がつくと肩に毛布がかけられていた。夏といってもそろそろ終わりに近づいたこの時期は、冷える事もある。
この優しさを女性の、しかも恋人からもらえたら──!
健吾は1人、頭を抱えて唸った。





