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ミッドナイト・キャナル  作者: 河野 る宇
◆第7章~静かなる脈動
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19/27

*決行間近

 午後12時を少し回ったところ──

「……」

 健吾は、目の前に広がる部屋に呆然とした。

「入り口で突っ立ってんな~」

 機材を運び込む泉の後に、ベリルが続いて入る。

「よく借りられたよね」

「ベリルにかかればこんなもんだ」

「誤解を招く言い方はよせ」

 そうかな、誤解でもない気がするんだけど……コトの経緯を聞いたら、確かに彼じゃないと借りられなかったと思う。

 こんな高級住宅街にマンションやアパートなどあるはずもなく、ベリルはどうしたものかと思案しつつ歩いていると、この家の住人に声をかけられたそうだ。

 どうも絵のモデルをやって欲しいと頼まれたようだが、本来なら断るところを彼はそこで交渉を始めた。

「モデルをするのは構わない、その代わりに部屋を貸してほしい」と言ったら、即座にOKが出た。

 見ず知らずの人間を出入りさせるのに即答っていうのには驚いたけど、主人はさらに僕らの食事代や客用の寝室まで使わせてくれると言うのである。

 どういった理由で借りたいのかも一切、訊かずにひとつ返事だなんて彼以外には絶対あり得ないコトな気がする。

 モデルを頼んで来た人は男の人だけど、油絵を趣味にしてて女性を描くのは飽きたとかどうかとか。

 絵を見せてもらったけど、どうにもコメントしづらかった……泉さんもベリルさんも無難な受け答えをしてたけども、僕にはそんな芸当は出来ない。

「自由に使ってくれたまへ」

 50代ほどの男性は、突き出た腹を揺らして自慢げに口を開く。

「痛み入ります」

 おおよそ似つかわしくない言葉遣いで応える泉に、健吾はぽかんとした。

「モデルの兼だがよろしく頼むよ」

「解っている」

 起伏のない声で返し、作業を続ける。それを確認して男は去っていった。

「ホントにモデルするんですか?」

「問題はない」

 大きめのデスクの上にディスプレイが3つほど並べられ、キーボードと見慣れない機械がその前に並べられる。

 これらを設置したあと、使い方や軽いシミュレートを行うと言われた。一体どんなコトをするんだろうと興味は尽きない。

 2人の作業を手伝って設置が終わったあとは、調整している様子をまじまじと見つめた。僕にとっては何もかもが目新しくて刺激的で飽きない。

 本格的な準備をしているせいか、部屋に運ばれてくるものはなんだか怪しいものばかり……搬入や移動は主に夜間にして、昼間はシミュレートを繰り返す。

 武器とか見てもさっぱり解らないから、僕は自分のやるコトに専念すると決めた。


 ここの主人──真木まき おさむは、自営業をしているらしい。奥さんはいま別居中だとか……お手伝いさんがいるけど僕たちには一切、関わるなと言われてるみたいで食事はベリルさんが作ってくれる。

 それがとんでもなく美味しくて、僕はいつも食事が楽しみだった。

 僕は素人だから必然的にベリルさんに色々と教わるコトになるんだけど、そうすると泉さんが機嫌悪くなる。


 そんなループが3日ほど続いた午前9時──いよいよ大賀邸に仕掛ける準備を始めた2人を、青年はじっと見つめた。

「市街地だから仕方ねぇが、どうも心許ないな」

 泉は、自分の服装に溜息を吐いて肩をすくめる。2人の服装は今までのものと大して変わらない気がするが、1つだけ明らかに違いがあった。

 右太ももに大きめのポーチがげられている。しかもそれはしっかりと固定するように腰だけでなく、もう1つベルトが回されていた。

 中身は知ってる……消音器サイレンサーのついた拳銃だ。それくらいなら、テレビで見た事があるからすぐに解った。

 泉はカーゴパンツ、ベリルはストレッチ素材のジーンズを履きその上には前開きの半袖シャツにベストを合わせている。

 ファッション制は高いが、一般人が着ているようなものじゃない事は健吾にもなんとなく解った。

「時刻合わせ」

 ベリルが発すると、泉は自分の腕時計に目を移す。

「5、4、3、2、1、チェック」

 青年は同時にボタンを押して時刻を合わせる様子を眺め壁の時計に目をやると、すでに10時に近かった。

「決行は予定通り10時だ」

「OK」

 発してすぐに部屋を出て行くベリルの背中を見つめた泉は、軽く伸びをする。

「さぁて、いっちょやりますか」

 口の端を吊り上げ、デスクの上にあるいくつものボタンのついた小さな塊を手に取った。

「あとはよろしく」

「はい」

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