*知るべきか知らざるべきか
偵察を終えたイエナ──もとい、ベリルさんと合流して近くのホテルに入る。
2人が滞在しているホテルのようだが、男同士なのに部屋を2つとっている事が健吾はおかしくて仕方なかった。
集まったのは、ベリルが借りている部屋だ。
なんだか微妙に重苦しい空気が室内に立ちこめている……泉とベリルの間には、なんとも妙な火花が散っているように思えた。
「もしかして、話し合いしてるときはいつもこうなの?」
リビングのソファで腰を落ち着けている一同だが、健吾の隣にベリルがいるために空気がますます重くなっている。
「僕を睨まないでよ」
刺すような泉の視線に眉を寄せた。
明らかにベリルさんは僕を盾にしている……右斜めの1人掛けソファから睨まれてる僕の身にもなってほしいけど、逃げたい気持ちも解るから何も言えない。
「店内の様子はどうだった」
泉が切り替えて話を振ると、ベリルはテーブルに置かれているノートパソコンを開き画像を映し出した。
どこかの店の風景──偵察に行った宝石店のものだろう。一般的な宝石店のようで、間接照明とアクセサリーを輝かせるライトなどがあちこちに設置されている。
品の良いインテリアが客の購買意欲を駆り立て、流れている音楽も上品なクラシックだ。
その画像を流しながら、店内の見取り図らしきものが印刷された紙を広げて赤ペンを手にしたベリルがそこに丸を記していく。
「監視カメラが5つ? 増やしたのかな」
泉が応えると、それを一瞥し今度はバツを記していった。
「! ほう、センサーは6つか。随分とセキュリティを厳しくしてる」
次に、泉が調べた配線の画像を示すとベリルが口を開く。
「ふむ……カメラとセンサーの電源を分けたか。多少は学んだとみえる」
思案する仕草をし、次に表示された画像で小さく唸る。
「この配線はなんだ。トラップか」
「……」
さすがというべきか、相手が何も言わなくても理解して話を進めていく2人に健吾は唖然とした。
趣味趣向の違いはスッパリと斬り捨てて、お互いを認め合っている間柄なんだと解る。
「今回はひと筋縄じゃいかないようだ」
「向こうもかなり苛立っているのだろう」
2人は互いに見合い、数秒ほど沈黙した。
「少し間を置くか」
「うむ」
「え? なんで?」
「奴らの動きが気にかかるんでな。データ収集に時間を使う」と泉。
「周辺の配線も調べてもらいたい」
立ち上がった泉に発すると、了解した事を手を挙げて示しドアに向かった。ドアの閉まる音を確認しベリルも立ち上がる。
僕はどうすればいいのかな……そう思っていると、コーヒーの香りがしてそちらに振り向く。新しいコーヒーを入れてくれているようだ。
「おかまいなく」
コーヒーカップを持って戻ってくるベリルに、社交辞令の言葉を投げる。彼は青年を一瞥し、右斜めにある1人掛けソファに腰掛けた。
カップを傾ける姿は、それがインスタントコーヒーなのだと思えないほど優雅だ。
「テ、テレビ付けていいかな」
帰るタイミングを逃した健吾は、そばにあるリモコンを手にする。音量を下げて、無難なワイドニュースにチャンネルを合わせた。
「巻き込んですまないとは言わん」
少しの怒りが見え隠れする瞳が見つめてくる。
「僕が自分から飛び込んだんだもの……そっちが謝る必要は無いよ」
自ら関わらないことも出来たのに、そうしなかった。どうなっても文句は言えない。
「知る権利もお前にはある」
驚いてベリルを見やった。静かに激しく漂わせる存在感とエメラルドの瞳は、健吾に視線を外させない。
全てを見透かし逃げることを許さないその眼差しに、背筋が凍る感覚と共に何故か心地よさも覚えた。
『何も隠す必要はない』
そう言われている気がして、恐怖は安堵へと換えられていく。
「……」
知りたい──でも怖い。
触れた事の無い世界にじっとりと足を踏み入れ、さらに深みにはまる先に目を凝らそうとしてしまう。
踏み出そうとする足を一歩進ませれば、知りたい世界が見える。
「もう少し……考えたいです」
「そうか」
やはり起伏のない声がかけられた。
見捨てられた訳でもなく、相手の感情を尊重した返答だと充分に理解はしていても、どことなく物足りない寂しさが健吾の心を通り過ぎていった。





