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ミッドナイト・キャナル  作者: 河野 る宇
◆第4章~妖艶の獣
11/27

*揺れる男心

「エスコート頼んだぞ」

「!」

 そうか、店の偵察だっけ。

「……って僕はまだ協力するなんて言ってない! それにかの──この人が男だったら余計に協力する意味がないよ」

 勝手に惚れといてよく言うなこいつ……と、泉は口の中でつぶやいた。そんな仲間を一瞥し、健吾に視線を移す。

「無理にとは言わん。協力してくれるならば事情は説明しよう」

「!?」

 う、そんなに見つめないで……男と解っててもなんか心がグラつく。

 確かによく見ると薄いアイラインとルージュを引いているだけだ、それでなんで女にしか見えないのか健吾には皆目、見当がつかなかった。

「おい」

「わあ!? なんだよっ」

 突然、泉の顔が割り込んできて口から心臓が出そうになった。

「変な考え起こすな。こいつは俺のだ」

「誰がだ……」

「えっ!? そういう関係!?」

「そう、そういう関係」

「覚えはない」

 にっこりと微笑む泉とは逆に、ベリルはとても嫌そうな表情を見せている。どうやら追いつ追われつという関係らしい。

「……男の尻を追いかけるのって、虚しくない?」

「女のケツを追いかけるのと何が違う」

「……」

 そう言われると違いは無いようにも思える。

 いや! だめだ! 相手のペースに乗せられるな。僕をそうやって自分たちの仲間にしようとしてるだけだ……健吾は頭を振って自分に言い聞かせるが、視界に入るベリルの姿にクラクラとして思考が定まらない。

「協力出来ないというのなら構わない。遂行完了まで伏せていてもらいたいだけだ」

「す、遂行……?」

 愁いを帯びた瞳につい、「協力します」と言いそうになって焦った。

「聞いたら後には引けなくなる。考えて答を出せよ」

 発した泉の表情は険しい。

「お前は泉と」

「こっちだ」

 そう言って遠ざかるベリルの背中を見送り、泉があごで示す。


 ──泉はタブレット端末を手に、街中をキョロキョロしながら歩いていた。

「ん~」

「? なにをしてるんですか?」

「配線を調べてる」

 立ち止まり、タッチパネルに指を滑らせた。

「ん? あいつらセキュリティ増やしやがったな」

 苦い表情を浮かべ、メモを取るように指を素早く滑らせていく。

「? そんなとこから解るんですか?」

「入手した最新の配線工事データを照合してるだけだ」

 どうやってそんなものを手に入れたんだろう……健吾は眉をひそめた。

 もしかしてこないだ言ってたように、この人たちは本当に凄い立場の人なんだろうか?

「でも、どうしてわざわざ女装してるんですか? あの人なら、そのままでも違和感ないと思うんですけど」

 その問いかけに、泉は青年に顔を向けず画像と街並みを交互に見やり口を開く。

「あいつは有名人なんだよ。そのままだとすぐにバレちまう」

「有名人? 泥棒の?」

「……お前な。いや、いい。そう思っとけ」

「へ?」

 なんか呆れられた気がするんだけど、違うのかな? 泥棒以外だったらモデルとか……あ、でも身長が足りないか。僕よりちょっと高いから174㎝くらい? この人は180㎝軽く超えてるみたいだけど。

 男から見ても格好いいと思う。ホモじゃなければ──ハッ!? そこで健吾はハタと気がついた。

 ホモ……

「心配すんな。お前は好みじゃねぇ」

「バレました?」

「そんな顔してればな。俺にも選ぶ権利あるの」

 しれっと返されて、なんとなくムッとなる。

「やっぱり外人趣味?」

「職業柄、日本国籍以外の奴がほとんどだ」

「海外での泥棒活動ってこと?」

 そこで泉は立ち止まり、青年を見下ろして深い溜息を吐いた。

「シーフ(盗賊)について何も知らない人間は気楽でいい」

「! なんだよ、知らないのは当り前じゃないか」

 彼の態度にさらに腹が立つ。

「だから『知らない人間は気楽でいい』って言ったろ」

「そ、そうだけど……っ」

「話さないのはお前のためだ」

 そう言われてしまえば、こちらからは何も言えない。自分たちが誤解を受けている今でさえ、そう言えるのだ。

 健吾自身もなんとなく解っている──自分の考えは間違っているのだろうと。しかしそう思えば思うほど、自分が蚊帳かやの外にいる気がして酷く嫌な気分になる。

 イライラが増していき、それが彼に当たってしまう結果になるのだが、軽くあしらわれてさらに倍増だ。

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