*揺れる男心
「エスコート頼んだぞ」
「!」
そうか、店の偵察だっけ。
「……って僕はまだ協力するなんて言ってない! それにかの──この人が男だったら余計に協力する意味がないよ」
勝手に惚れといてよく言うなこいつ……と、泉は口の中でつぶやいた。そんな仲間を一瞥し、健吾に視線を移す。
「無理にとは言わん。協力してくれるならば事情は説明しよう」
「!?」
う、そんなに見つめないで……男と解っててもなんか心がグラつく。
確かによく見ると薄いアイラインとルージュを引いているだけだ、それでなんで女にしか見えないのか健吾には皆目、見当がつかなかった。
「おい」
「わあ!? なんだよっ」
突然、泉の顔が割り込んできて口から心臓が出そうになった。
「変な考え起こすな。こいつは俺のだ」
「誰がだ……」
「えっ!? そういう関係!?」
「そう、そういう関係」
「覚えはない」
にっこりと微笑む泉とは逆に、ベリルはとても嫌そうな表情を見せている。どうやら追いつ追われつという関係らしい。
「……男の尻を追いかけるのって、虚しくない?」
「女のケツを追いかけるのと何が違う」
「……」
そう言われると違いは無いようにも思える。
いや! だめだ! 相手のペースに乗せられるな。僕をそうやって自分たちの仲間にしようとしてるだけだ……健吾は頭を振って自分に言い聞かせるが、視界に入るベリルの姿にクラクラとして思考が定まらない。
「協力出来ないというのなら構わない。遂行完了まで伏せていてもらいたいだけだ」
「す、遂行……?」
愁いを帯びた瞳につい、「協力します」と言いそうになって焦った。
「聞いたら後には引けなくなる。考えて答を出せよ」
発した泉の表情は険しい。
「お前は泉と」
「こっちだ」
そう言って遠ざかるベリルの背中を見送り、泉があごで示す。
──泉はタブレット端末を手に、街中をキョロキョロしながら歩いていた。
「ん~」
「? なにをしてるんですか?」
「配線を調べてる」
立ち止まり、タッチパネルに指を滑らせた。
「ん? あいつらセキュリティ増やしやがったな」
苦い表情を浮かべ、メモを取るように指を素早く滑らせていく。
「? そんなとこから解るんですか?」
「入手した最新の配線工事データを照合してるだけだ」
どうやってそんなものを手に入れたんだろう……健吾は眉をひそめた。
もしかしてこないだ言ってたように、この人たちは本当に凄い立場の人なんだろうか?
「でも、どうしてわざわざ女装してるんですか? あの人なら、そのままでも違和感ないと思うんですけど」
その問いかけに、泉は青年に顔を向けず画像と街並みを交互に見やり口を開く。
「あいつは有名人なんだよ。そのままだとすぐにバレちまう」
「有名人? 泥棒の?」
「……お前な。いや、いい。そう思っとけ」
「へ?」
なんか呆れられた気がするんだけど、違うのかな? 泥棒以外だったらモデルとか……あ、でも身長が足りないか。僕よりちょっと高いから174㎝くらい? この人は180㎝軽く超えてるみたいだけど。
男から見ても格好いいと思う。ホモじゃなければ──ハッ!? そこで健吾はハタと気がついた。
ホモ……
「心配すんな。お前は好みじゃねぇ」
「バレました?」
「そんな顔してればな。俺にも選ぶ権利あるの」
しれっと返されて、なんとなくムッとなる。
「やっぱり外人趣味?」
「職業柄、日本国籍以外の奴がほとんどだ」
「海外での泥棒活動ってこと?」
そこで泉は立ち止まり、青年を見下ろして深い溜息を吐いた。
「シーフ(盗賊)について何も知らない人間は気楽でいい」
「! なんだよ、知らないのは当り前じゃないか」
彼の態度にさらに腹が立つ。
「だから『知らない人間は気楽でいい』って言ったろ」
「そ、そうだけど……っ」
「話さないのはお前のためだ」
そう言われてしまえば、こちらからは何も言えない。自分たちが誤解を受けている今でさえ、そう言えるのだ。
健吾自身もなんとなく解っている──自分の考えは間違っているのだろうと。しかしそう思えば思うほど、自分が蚊帳の外にいる気がして酷く嫌な気分になる。
イライラが増していき、それが彼に当たってしまう結果になるのだが、軽くあしらわれてさらに倍増だ。





