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6 黒と闇

精霊鉱は、まさに神出鬼没の存在だ。

鉱山から発見されることも、森の中に顕れることも、川の中で見つかることもある。

それらは、発見者だとて所有権を持つことは叶わない。確か、報酬と引き換えに所有権は基本発見された国に移管される筈だ。そのため一攫千金を狙う輩もいるが、如何せん出現する条件が謎なため、無作為に世界を放浪する以外、策はない。

更に精霊術に精通していないと、精霊鉱であることすら気が付かない。そんな難解且つ希少な存在は、精製作業を経て精石となって初めて人々が使用できる状態になる代物だった。

それが―――。


――こんなところで……!


イノリの手は震えていた。

恐らく、この精霊鉱の属性は地だ。

何故此処で、という疑問は意味がない。誰も答えを知らないのだから。

落ち着け、落ち着け。

イノリは自分に言い聞かせた。

自身の手の中に世界の至宝がある。

じんわりと汗が滲んだ。

掘削現場で発見されたのだから、まず親方であるガンズに報告するべきだ。

だが、既にガンズはここには居らず、また自宅の場所もイノリは分からない。

だからと言って、放置する訳にはいかない。

やはり一旦宿に持ち帰り、ミダに判断を仰ぐのが最善だろう。寧ろルキア教の深部に属するミダは、この後の動きについて詳しいかもしれない。


―何にせよ、俺が持っているのは良くない。


急いで宿に戻ろう。

イノリは鞄を掴み、奥底へ精霊鉱をそっと入れる。

足早に現場を後にしようとした、その時。


ガツッ。


衝撃がイノリの背を襲う。

痛い、と感じる隙もなく、脳味噌が激しく揺れる。

点滅し、回転する視界と共にイノリは倒れ込んだ。


「……あ……」


ガラン、と投げ捨てられたシャベル。

ぐい、と肩を押されて体の向きを変えられる。胸に抱えていた鞄を掴まれる。


「や、やめ…」


必死に抵抗しようとしたイノリの顔を、男は舌打ちしながら数回殴りつけた。

「ぁぐっ…!」

「邪魔くせえな」

止めとばかりに腹を蹴り上げられる。

あまりの激痛にイノリは蹲った。その体から、鞄が毟り取られる。

鞄の中を漁る男の顔を、霞む視界に捉えた。

ツエン。確か、商会に居た男だ。

イノリは理解した。

この男は自分が精霊鉱を発見したのを、見ていたのだ。

不正に塗れたラクロワ商会に居たのであれば、違法な道で精霊鉱を売り捌くことも可能かもしれない。


―くそ!


「…ははっ…」

ツエンの指先が硬いものを見つける。逸る心を抑え、それを掴み取り出す。

間違いなく精霊鉱だ。

「はははっ…」

ツエンは笑った。

漸く。漸くだ!

俺が、こんな肥溜めで終わる筈がない!

俺には才能があるのだから!そして今、相応しい幸運が舞い込んだ!

ツエンは星のない空を仰ぎ、大きく息を吐く。

彼は精霊鉱を懐にしまい、鞄をイノリに投げつけた。

そして這いつくばっている少年には目もくれず、歩き出す。


「待て……」


イノリは呻く。起きようとしても、痛めつけられた体に力を入れることができない。

―だが。

イノリの下から音もなく闇が広がる。やがてそれは放射状に立ち昇り、まるで大切な贈り物のようにイノリを包んでいく。


「…ロイ…?」


影に包み込まれる前、イノリは見た。

一筋の黒がツエンに向かって伸びていくのを。


「ロイ…!!」


イノリは叫んだ。

しかし、影は少年を飲み込む。

世界の穢れから断絶するように。

守るように。

闇が覆った。



そして一瞬の後。

イノリの耳に悲鳴が届いた。




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