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ダンス・ウィズ・ア・シャドウ  作者: 森大洋
救いの手の後先
19/32

3 無言の拝

「失礼いたします」


厳かな雰囲気で馬車の扉が開く。

恐らくルキア教の関係者であろう人物は、顔を下げたままミダとイノリが出るのを待っていた。


―紗幕の神官の正体は、内部であっても機密事項なのか。


顔を上げても紗に遮られ、ミダ達の相貌は分からない。だが、それ以上に「見てはならない、知ってはならない」という掟を彼等は遵守しているのだ。

それ程までに異質な立場の、紗幕の神官。


一体、何なんだ――?


先を行くミダの一歩半後ろをイノリは歩く。

森の中、のようだ。リガレが言っていたモンゾという地だろうか。

暫く進むと、細長い4本の石柱で四角く囲まれた場所に出た。

ふい、とミダは無言で手を払う。すると後をついてきていた者達はその場に跪き、顔を伏せた。

ミダはその囲まれた部分に入っていく。

場の中央には、ミダの身長を超える石が置かれていた。ミダは裾を払い、石の前に膝をついた。

おずおずとイノリも真似ようとしたが、ミダの指がくい、と動いているのに気がつく。

歩いて来た間隔を保ってやや後ろに跪こうとしていたが、意図を汲み自然な流れでミダの隣に修正をする。

「イノリ」

小さくミダが話しかける。イノリはミダの声に違和感を覚えた。

「これが何だか分かる?」

ミダは真っ直ぐ石を見上げて言った。イノリも目だけで石を窺う。

そして、あ、と気付く。

「…精霊鉱、ですか」

あまり精製前の状態を目にすることはないが、石が放つ空気は間違いないく精霊鉱だ。だが、属性までは感じ取れない。

「そう。だけど、これは複合型」

「複合型?」

「属性が一つじゃない」

「なっ…」

思わず声をあげそうになったが、必死に飲み込む。

「そんな物、聞いた事が無い…!」

「公表されてないからね」

冷静にミダは言う。まるで礼拝をしている、その姿勢のままで。

「複合型は特殊な力を持つ。故に秘され、管理下に置かれている」

イノリは最早言葉が出なくなっていた。

自分が知っている、生きている領域は世界のほんの一部でしか無いことなんて、誰しもが分かっている常識だ。

だが、これは違うだろう!

愛でていた蕾が花開いた時、その中には虚が広がっていたような。

幾万枚の鏡の世界に閉じ込められたような。

…否、得も言われぬ、墜ちていく恐怖。

「それを使うか否かを、判断する」

ミダは告げ、音も無く立ち上がった。




++++++++++++




次に訪れたのは少し寂れた建物だった。職員と見られる人々は皆、一律に白い服を身に纏っている。


―癒院か?


ミダの後ろで、イノリは思う。しかし直ぐにそれが間違いであることを感じ取った。

何故だろう、時間が流れていないような感覚。

世界から切り出されたような、独特の空気感。

そして静かな、とても静かな人間たち。


―違う、此処は―――。


イノリはじんわりと汗ばんだ拳を握る。


――安息院だ。


安息院とは、もう死を待つばかりの人間を受け入れ、最期の時を穏やかに迎えられるよう心を配る施設だ。

建物の中は殆ど話し声が聞こえない。見舞う者も、いないということだろうか。

代わりに何処からとも無く、微かな呻き声が響く。

イノリの全身はこの建物を恐怖した。


―嫌だ、此処に居たくない。


どうしてこのような場所に来ているのだろう。

それと向かい合うのが恐ろしい。

しかし、ミダの確固たる歩みはそれを赦さない。

ある扉の前で、断罪のような進行は止まる。

決められた暗号のように、ミダは扉を叩いた。


トン、

トン。


悲鳴のような、軋んだ音がする。

ゆっくりと扉を開いたのは窶れ切った女性だった。


「…、……」


かくんと首を折り、礼をする女性。

寝台の上では枯れ枝のような高齢の女性が、息をしていた。



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