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番外編6「セカンドリーフの、ひととき」
午後のひととき。
セカンドリーフの中庭には、春の風がそよいでいた。
ヴァルゴはベンチに腰を下ろし、紅茶を淹れていた。
その隣で、リリがニコニコしながら絵本を読んでいる。
「神田さん、あとで散歩の付き添いお願いって言ってましたよ」
「ああ。歩行訓練の時間だな」
レオンは風除けのマントをたたみ、ノクは利用者の足元に膝をついて靴紐を結ぶ。
今日は、なにか特別なことがあるわけではない。
それでも、誰かの声があり、誰かの手があり、
誰かのぬくもりが、静かにこの場所を満たしていた。
神田は縁側に座り、少しだけ目を閉じる。
(……今日も、ここで生きている)
遠くで、妖精たちの小さな歌声が聞こえた。
風に乗って、優しい匂いが漂ってくる。
それは、パンの焼ける香り。
「……もうすぐ、昼食だな」
彼はゆっくりと立ち上がり、日常の中へと歩き出した。
今回は物語を締めくくるような、穏やかな番外編をお届けしました。
事件も展開もないけれど、“介護のある日常”がこの作品の核であると、改めて感じています。
またいつか、この世界の続きを描けたら嬉しいです。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。




