番外編3「リリと妖精の日記」
リリは、昼休みの合間にいつも小さなノートを開いていた。
「今日は、おじいちゃんが“ありがとう”って言ってくれてうれしかった」
「神田さん、今日も口では素っ気ないけど、すごくやさしい」
「ノクくん、また転んでた。がんばれ〜」
それは、まるで日記のような、詩のような、観察記録のような……。
ある日、ノクが何気なくそのノートを見つけた。
「リリさん、これ……」
「えへへ、ひみつの“にっき帳”だよ。でも、施設の“記録魔法”には書けないこと、たくさんあるから」
ノクは読み進めるうちに、目を細めた。
「これ……読んでると、ここにいるみんなの顔が浮かんできますね」
あるページには、こんな言葉があった。
『ひとのこころは、きろくにのこらない。だけど、ちゃんと ここに のこってる』
その言葉に心を動かされたノクは、ふとした機会に王都のミラにそれを見せた。
数日後、王都からの返信が届いた。
「セカンドリーフの“職員日記”、福祉研修の教材として使わせてほしいとのことです」
リリはぽかんと口を開けて、それから照れ笑いを浮かべた。
「わ、わたしの……“にっき帳”が、王都で……!?」
神田は笑いながら、リリの頭を軽く撫でた。
「いいじゃないか。言葉は、誰かの心を動かす力があるんだ」
その日の記録には、こう綴られていた——
『今日、わたしのことばが、だれかの役に立った。ちょっと、はずかしい。でも、うれしかった』
今回は、リリの“ひみつのにっき帳”を通して、記録には残らない「介護の心の記録」を描いてみました。
現場では日々、書類や記録に追われがちですが、本当に残したいのは、こういう“気持ち”なのかもしれません。
次回は、ちょっと笑える番外編「神田、初任者研修に行く」をお届けします




