番外編2「レオンの小さな診察室」
今日は“健康相談日”。レオンは小さな診察机に魔導聴診具と筆記具を並べていた。
診察室と呼ばれる部屋は、もともと使われていなかった物置をリフォームしたものだ。
窓から差し込むやわらかな光が、部屋の緊張感を少しだけ和らげてくれる。
一人目はドワーフの利用者、グレイス。
「膝の関節、朝方こわばって動きにくくてな」
レオンは笑顔で応じながら、魔導具で関節の魔力流を確認する。
「変形は進んでいませんが、冷え対策を強化しましょう。あとは、湿布と軽い運動ですね」
「ふむ……お前さんの言うことなら、やってみるか」
二人目は妖精族のラルナ。
「最近、なんだか胸がざわざわして眠れないの」
魔法で脈をとり、音を聞き、身体に異常がないことを確認したうえで、レオンは静かに尋ねる。
「……何か、不安なことがありましたか?」
ラルナは少しだけ口ごもってから、こうつぶやいた。
「……みんなが先にいなくなっちゃうの、かなしいなって思っただけ」
レオンは、それには何も言わず、そっと手を差し出す。
「この施設は、心の診察も大切なんです」
ラルナは、その手を握り返して、小さく笑った。
最後の利用者が部屋を出たあと、神田がやってきた。
「レオン、どうだ?」
レオンは深呼吸して、肩をほぐす。
「“診察”って、魔法や知識だけじゃ足りないんですね。ちゃんと聴くことが……一番難しくて、大事です」
神田は頷いた。
「そうだな。体だけじゃなくて、“言葉の後ろ”も見ようとする。それが、支えるってことだ」
その日、レオンの診察記録の片隅には、こう書き加えられていた。
『診ることは、聴くこと。そして、ともにいること』
今回はレオンを中心に、“介護と医療の交差点”を描いてみました。
魔法で治せない“不安”や“心の痛み”にどう寄り添うか──。
それは、現実の介護や看護でも共通する、大切なテーマです。
次回は、リリが綴った“にっき帳”から見える日常の記録と、その意外な影響を描いていきます。




