番外編1「ヴァルゴの夜」
セカンドリーフの深夜。
すべての部屋の明かりが消え、静寂に包まれていた。
ただひとつ、記録室の光球だけが、淡く揺れている。
ヴァルゴは魔法球に手をかざし、利用者の眠りを記録していた。
「入眠確認、ベッド3番、リズ呼吸安定。……次」
淡々とした声で、魔法記録が更新されていく。
この時間、誰も彼を呼ばない。
だからこそ、彼はこの時間を“好き”と言えるのだった。
ふと、廊下の端で気配が動いた。
「……?」
音を立てずに歩くと、窓辺に腰かけていたのはセリルだった。
「夜が、さみしくてね。昔のこと、思い出すの」
彼女は誰かの名を呼ぶように、夜空を見上げていた。
ヴァルゴは隣に座り、小さな声で答えた。
「さみしさは、思い出がある証拠だ。忘れない限り、その人はここにいる」
セリルは静かに頷き、こう言った。
「じゃあ、あなたも……誰かを覚えているの?」
ヴァルゴは少し黙ってから、そっと立ち上がった。
「……“記憶を封じた皇子”に、覚えていることはない。でも、夜は不思議だ。たまに、夢を見させる」
彼はセリルの手に、魔法であたためたカップを渡す。
「これは、眠りを促す魔茶。体にやさしい」
「ありがとう。……やっぱり、あなたはやさしいのね」
「誤解だ。私はただ、責務を果たしているだけ」
それでも、とセリルは笑った。
月明かりの差す廊下で、二人の影が寄り添っていた。
その夜の記録魔法には、こう記されていた——
『深夜巡回中、セリル氏との対話あり。情緒安定。再入眠確認済み。月が、静かに輝いていた』
今回はヴァルゴが主役。
夜勤という静かな時間にしか描けない“介護のもうひとつの顔”を表現してみました。
セリルとのやりとりの中で、記録に残らないけれど大切な“心の交流”が垣間見えていたら嬉しいです。
次回はレオンにスポットを当てた一話をお届けします。




