第50話「その日、介護士は異世界に立っていた」
朝霧の残る早朝。
神田は静かに廊下を歩き、まだ寝静まる施設を見回っていた。
窓の外からは、鳥のさえずりと、朝露の滴る音だけが聞こえる。
セカンドリーフの玄関前。
ほうきを片手に掃除をしていた神田は、ふと立ち止まり、空を見上げた。
東の空が、やわらかな光で染まっていく。
「……あの日も、こんな朝だった気がするな」
神田はひとつ息を吐いて、振り返る。
リリ、レオン、ヴァルゴ、ノク。皆が小さく会釈しながら玄関に立っていた。
「神田さん、今日の予定、もう一度確認しますか?」
「いや、大丈夫。……今日は、“いつも通り”でいこう」
朝食の準備、記録魔法の確認、入浴支援、見守り。
それぞれが、慣れた動きで動いていく。
利用者の笑い声、リリの小さな歌、ノクの「できました!」という喜びの声。
そのすべてが、神田の胸を満たしていた。
昼下がり、神田は縁側に腰を下ろす。
その背に、そっと誰かが座る気配。
「——神田さん、ここに来て、後悔したことはありますか?」
振り返ると、そこには以前の夢に出てきた、あの“手”の主に似た面影があった。
その問いに、神田は静かに微笑んで答えた。
「ないよ。一度も」
夕陽が差し込み、影が長く伸びる。
神田は最後にもう一度、立ち上がって言った。
「今日も、誰かと生きていく。——それが、俺の仕事だ」
その言葉とともに、セカンドリーフの一日は、また静かに続いていった。
ついに、第50話を迎えました。
神田の“介護士”としての在り方、その答えを描き切ることができていたら幸いです。
本作は、ここで一つの区切りとしますが、物語はまだどこかで続いています。
現場で介護をしている方、支える人を見ている方、介護に触れる全ての人に、そっと届く物語になっていたら嬉しいです。
またどこかで、お会いしましょう。ありがとうございました。




