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第41話「揺らぎの音、鈴が鳴る」
昼下がりの中庭。ひとりの利用者が、不意に立ち止まった。
セリルだった。彼女はいつもより落ち着かず、手元の編みかけの布を握りしめていた。
「……音が、聞こえた気がしたの」
リリがそばで寄り添う。
「どんな音でしたか?」
「……鈴の音。でも、だれが鳴らしたのか、思い出せなくて……」
その時だった。風にのって、小さく“ちりん”と澄んだ音が響いた。
音の主は、グレイスが鍛えたばかりの真鍮の鈴。
ノクが磨いて、窓辺にそっと吊るしていたのだった。
「……あの音。懐かしい……」
セリルの瞳に、一筋の光が戻る。
グレイスは、少し照れたように呟いた。
「たいしたもんじゃない。ただの、音だ」
「でも、その音が、記憶をつないでるのかも」
ノクがそう言ったとき、誰かがそっと拍手をした。
施設の風鈴がわりの小さな鈴。
それが、心のどこかを揺らした。
セリルは、その音に包まれながら、静かに編み針を動かし始めた——
今回は、グレイスの鍛えた鈴が、セリルの記憶と心を揺らす小さな奇跡のような場面を描きました。
音や香り、手触り……そういった感覚が、介護の中で大きな意味を持つ瞬間を大事にしたくて書いています。
次回は、王都からの再訪者が現れ、施設の“今”と“これから”に波を立てる展開へと入っていきます。




