第39話「焚き火の夜に」
その夜、セカンドリーフの裏庭で、小さな焚き火が燃えていた。
寒さが戻った春の夜に、リリが提案した“焚き火で団らんの会”。
利用者や職員が毛布を羽織って、焚き火を囲む。
「この感じ、なんか好きかも」
ノクがそう言うと、リリがにっこりと笑う。
「焚き火って、みんなの心が近くなる気がしませんか?」
その隣で、グレイスが黙って火を見つめていた。
薪がはぜる音に混ざって、セリルが刺繍を手にしながら口を開いた。
「昔は、村の縁側でもこうやって火を囲んでいたのよ。何もなくても、人は集まったわ」
それに応えるように、グレイスがぽつりと呟いた。
「……あんたらの“何もない”は、十分あるんだよ。温もりってやつがな」
その言葉に、誰かが静かに笑った。
しばらくして——
「なあ、神田」
グレイスが言った。
「俺、いつかもう一度……火を扱ってみたいと思ってる」
神田は驚かず、ただ頷いた。
「その時が来たら、一緒に考えましょう」
グレイスの手が、布玉を握るようにそっと膝の上で閉じられた。
今回は、施設の皆が“同じ火を囲む”ことで、自然と心が通い合う描写を中心に描きました。
グレイスの中に生まれた新たな気持ちが、これからどんなふうに広がっていくのか。
次回は、その「もう一度火を扱いたい」という言葉が、具体的な形になり始める予定です。どうぞお楽しみに。




