第36話「針目がつなぐ縁(えにし)」
数日後。リリは洗濯物を干していたとき、裏庭で風に揺れる白い布を見つけた。
それはセリルが刺繍していた布の一枚。花模様が陽の光を浴びて、きらきらと輝いているようだった。
「これは……」
手に取ると、裏に小さく文字が縫い込まれていた。「ミーナへ」と。
その名前に、レオンが反応する。
「……ミーナ? それって、村の集会場の老木のそばに住んでた方の名前じゃ?」
「確か、数年前に亡くなった方……セリルさんの教え子だったかも」
リリとノクは、セリルの部屋を訪れた。
刺繍布を手渡すと、セリルはそれをそっと撫でた。
「……ミーナ。あの子ね。そう、あの子の婚礼の日に、これを縫ったの。思い出したわ」
静かな声に、ノクは思わず笑みをこぼした。
「すごいですね。布が、記憶をつないでくれたんですね」
セリルは微笑むと、窓の外を見つめた。
「たとえ忘れても、思いが込められたものは、必ず誰かの手を経て帰ってくるのね」
その夜、神田は日誌に一文を残した。
『介護とは、記憶をつなぐ仕事ではなく、想いをつなぐ仕事である』
ページの端にその言葉を書きながら、静かにランプの灯りを落とした。
今回は、セリルの縫った刺繍布がつないだ記憶と想いを描きました。
物に込められた気持ちが、時間を超えて人と人をつなぐ。介護という営みの奥深さを、少しでも感じていただけたら幸いです。
次回は、新たな入居希望者が現れ、セカンドリーフにまた新しい風が吹き始めます。どうぞお楽しみに。




