第34話「初めての訪問、はじめての迷い」
ノクがセカンドリーフの職員として迎えられてから数日。施設内の仕事に少しずつ慣れてきた頃、神田が一枚の依頼書を手にして言った。
「ノク、今日は君に任せてみたい訪問がある」
それは、村外れに暮らす老獣人・ガランからの依頼だった。内容は「調理器具の設置と軽い見守り」。
「基本は雑談と確認だけ。だけど、彼は“頼られるのが苦手な人”だ。だから慎重にな」
「……わかりました」
ノクは胸に軽い緊張を抱えながら、セカンドリーフを出た。
ガランの家は山のふもとにあり、古びてはいたが手入れが行き届いていた。
「……来たか。お前が、神田のところの新入りか」
低く響く声。ガランは背は低いが肩幅のある大柄な老獣人で、片足を少し引きずっていた。
「はい、ノクと申します。今日は調理台の補助具の取り付けと、見守りに——」
「見守りはいらん。道具だけ置いて帰ってくれ」
早々に突き放され、ノクは一瞬たじろぐ。
だが、すぐに深呼吸して笑顔をつくった。
「せっかく来ましたし、五分だけでも。調理台の高さ、合ってるか試していただけませんか?」
ガランは渋々ながらも立ち上がり、補助具に手をかけた。
そのとき——足元がふらりと揺れた。
「……っ!」
咄嗟に支えたノクの腕に、ガランの体重がかかる。
「すみません、大丈夫ですか?」
「……なんともない」
そう言いながらも、老いた獣人の肩は小さく震えていた。
「昔は、こんなもんなくても、立って料理できたんだ」
ぽつりとこぼされた言葉に、ノクは返す言葉が見つからなかった。
施設に戻った夜、神田は静かにノクの話を聞いた。
「何もできなかった……って思いました。でも、何もできないって、そんなに悪いことなんでしょうか」
「悪くないよ。むしろ、“そう思えたこと”が大事なんだ」
神田は、どこか懐かしそうに微笑む。
「介護は、魔法みたいに全部を解決できる力じゃない。ただ、“そばにいよう”とする力だ」
その言葉が、ノクの胸にじんと響いた。
今回は、ノクの初訪問支援を描きました。思うようにいかない中でも、相手と向き合うことの難しさと大切さが伝われば嬉しいです。
次回は、利用者の“過去”に触れるエピソードを予定しています。どうぞお楽しみに。




