第31話「もう一度、向き合うために」
セカンドリーフの掲示板に、新しい依頼が貼られていた。
「歩行訓練の補助をしてほしい」——それは、隣村に住む片脚を痛めた老人からのものだった。
「魔導補助師の見習いを同行させたい、とのことです」
レオンが神田に報告する。
神田は少しだけ目を細めた。「魔導補助師、か……」
かつて病院のリハビリ室で、懸命に歩こうとしていた利用者の姿が脳裏に浮かぶ。杖を使いながら、一歩、また一歩と足を前に出していた、あの人の後ろ姿。
自分は、あの時——
「わかりました。行きましょう、見習いさんも歓迎です」
依頼先の家の前には、すでに一人の若者が立っていた。
「はじめまして。ノクと申します! 魔導補助師の見習いで、王都の養成機関から実地研修で来ています!」
赤茶の髪に、大きな魔導具入りの鞄。瞳がまっすぐで、言葉に躊躇がない。
神田は思わず微笑んだ。「こちらこそ。神田です、よろしくお願いします」
「今日は僕、利用者さんの足に合わせて補助具を調整してみようと思ってて。力加減とか、魔素の反応も見ながらやる予定で——」
「……しっかりしてるね。正直、驚いたよ」
神田の言葉に、ノクは照れたように頬をかいた。
「僕、誰かの“できた”の瞬間を見るのが、好きなんです。……昔、父が歩けなくなって、それでも杖を持って一歩だけ進んだのを見た時、感動して」
その言葉に、神田の胸が一瞬だけ詰まる。
誰かの「できた」を支える——
それは、神田が介護の世界に入ったきっかけと、どこかで重なる。
(俺も……本当は、また“あの瞬間”を、見たかっただけなのかもしれない)
利用者の老人は、足を引きずるようにして縁側に座っていた。
ノクは丁寧に補助具の調整を行い、神田はその動作を見守りながら声をかける。
「焦らなくて大丈夫ですよ。今日は“立ってみる”だけでもいいんです」
しばらくして、老人はゆっくりと立ち上がる。
「……立てた、な」
「ええ、立てました。すごいことですよ」
神田の声に、老人は小さく頷いた。
その横で、ノクが涙をこらえるように口元を押さえていた。
そしてその姿を見つめながら、神田はふと思った。
(……この世界に来た理由が、少しだけわかった気がする)
——また誰かの“できた”を見たくて。
——また誰かと、笑い合いたくて。
だから今、自分はここにいるのかもしれない。
今回は、新キャラクター「ノク」を通じて、神田の原点のようなものを少しずつ描いてみました。
神田自身の目的や、なぜ異世界に来たのかは、今後の物語で断片的に明かされていく予定です。
新しい専門職・魔導補助師も、今後の訪問支援や入居者支援に関わっていく予定なので、お楽しみに!
次回は、王都の福祉事情に関わる人物の影がちらりと……? お楽しみに。




