第27話「灯りをともす者たち」
昔話の会が終わった翌日、神田はふと、あることに気づいた。
話していたときの利用者たちの表情。どこか生き生きとしていて、言葉を探す様子にも、何かを伝えたいという“意志”があった。
それは、普段の生活の中では見えづらい“心の灯り”のようなものだった。
「神田殿、おはようである」
ヴァルゴが声をかけてきた。夜勤明けにもかかわらず、どこか清々しい表情をしている。
「昨日の催しは、静謐であった。我もまた……久方ぶりに、記憶の底に沈んでいた情景を思い出したのだ」
神田は少し驚きながらも、敬意を込めて微笑んだ。
「……それは、よかったです、ヴァルゴさん。皆さんのお話を引き出してくださって、助かりました」
「ふむ。あれは、語られねばならぬものだったのであろう。我が干渉せずとも、言葉は自然と湧き上がった」
神田はその言葉にうなずきつつ、心の中で彼の成長に感謝する。かつて“魔界の皇子”を名乗っていた彼が、今では誰かの心に寄り添うようになっているのだ。
その日の午後、施設に一人の来訪者があった。
それは、かつて訪問介護で関わった高齢のオーク女性の孫だった。
「祖母が、昨日の夜にこう言ったんです。『今日もあの人が夢に来てくれたよ』って……神田さんたちのこと、ちゃんと覚えてるみたいなんです」
神田は胸が熱くなるのを感じた。
「……それは、何よりもうれしいです」
帰り際、少女は手作りの草花を束ねたブーケを差し出した。
「これ、お礼です。祖母が“春の花畑みたいな人たちだった”って言ってたから」
神田はその言葉を胸に刻む。
誰かの記憶の中に、小さな花のような光を残せたなら。
それはきっと、この世界に介護を持ち込んだ意味のひとつだろう。
今回のエピソードでは、“介護を受けた人がその後に何を感じ、どのように支えてもらったことを覚えているのか”を描いてみました。
直接的な言葉や記憶ではなくても、「誰かと過ごした時間」の温もりが残っていくこと。
それは、現実の介護現場でもよく感じることです。
支える側も、支えられる側も、どちらも“心に何かを残していく”——
そんなつながりの積み重ねを、今後も描いていきたいと思っています。




