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第25話「不安と気づきと、朝のはじまり」


 朝靄が立ち込めるセカンドリーフの中庭で、神田は一人、深く息を吐いた。


 昨夜、猫の獣人「ミケ婆さん」が、かつて失った娘の名を口にして涙ぐむ姿を目にしていた。その様子は、神田の心に深く残っていた。


「……記憶が曖昧になっても、気持ちは、ちゃんと残るんだな」


 彼の脳裏には、かつての職場で経験した夜勤の記憶がよみがえる。何度も声をかけ、拒否され、それでも手を握り続けて、「ありがとう」と言われた夜。


 ふと、声が背後からかかる。


「おはようございます、神田さん」


 エルフの介護士・リリだった。変わらぬ優しい微笑みに、神田は安心した。


「ミケ婆さん、今朝はどうだった?」


「落ち着いています。でも、夜中に少し混乱されていたようで、お嬢さんの名を繰り返し呼ばれていたと、レオンさんから聞きました」


「……そっか」


 神田は少し考えた後、思いを巡らせるように呟く。


「今日のレクリエーション、変更しよう。代わりに“昔話の会”を開いてみたいんだ。皆の記憶をたどるような時間に」


 リリは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で頷いた。


「とても良いと思います。……きっと、ミケ婆さんにも届きます」


 そうして、神田たちは、小さな“記憶の時間”の準備を始めた。



今回のテーマは「記憶と気持ちの違い」でした。


介護現場では、認知症の方が昔の記憶を断片的に語ったり、思い出せないはずの誰かの名前をふと口にしたりする場面があります。

そのとき、言葉や行動が曖昧でも、“気持ち”はそこにあるんだと感じる瞬間があります。


ミケ婆さんのように、記憶の奥底に眠る感情に触れる時間は、介護者にとっても特別な経験です。


異世界という非現実の舞台でも、こうした“心の真実”はリアルに描いていけたらいいなと思っています。

次回は、その気持ちをたどるための「昔話の会」をお届けします。お楽しみに!

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