第24話「誰かのための、その一歩」
夜が明け始めたセカンドリーフ。中庭の花壇には、レオンが早起きして世話をしていたハーブが朝露をまとって揺れている。
神田はその光景を窓から眺めながら、昨夜の会議のことを思い出していた。訪問介護を本格的に取り入れるべきかどうか――村からの依頼が増えている現状を踏まえ、職員全員で真剣に話し合った。
しかし、最大の問題は「人手不足」だった。施設内のケアでさえギリギリの状態。訪問に人を割けば、施設の利用者が手薄になる。
「……無理だと決めつける前に、できる方法を探すべきだよな」
神田は独り言のように呟き、自室を出た。廊下を進むと、ちょうど出勤してきたヴァルゴとすれ違った。
「おはようございます、神田さん」
「おはよう。あのさ、訪問の件で少し――」
そのとき、玄関ホールから慌ただしい足音が聞こえた。リリが駆け込んできて、息を切らせながら叫ぶ。
「村の東の集落で、独居の高齢者が倒れているって!村人が知らせに来たけど、医者が間に合わないって……!」
神田はすぐに判断した。「レオンと一緒に向かおう」
訪問介護の準備など整っていなかったが、今、誰かが動かなくてはならない。その「一歩」を踏み出すことが大事なのだ。
馬車を出し、レオンと共に現場へ向かう。村の中でも特に山奥に近い場所。年老いたオークの女性が床に倒れていた。
脈は不安定、意識も朦朧としている。しかし、神田の呼びかけに微かに反応があった。
「大丈夫ですよ。私たちは“支援者”です。あなたを独りにしません」
神田がそう伝え、レオンが治癒魔法で応急処置を施す。あとは安静にして様子を見るしかない。
帰り道、神田はレオンに言った。
「訪問介護って、制度や仕組みじゃなくて、“気持ち”が出発点だよな」
レオンは頷き、ほほ笑んだ。
「神田さんの“気持ち”があったから、あの人は今日を迎えられたんです」
夜になって施設に戻ると、職員たちが出迎えてくれた。ヴァルゴは腕を組みながら言う。
「……今の人数で完璧は無理だ。でも、今日のことを見て思ったよ。無理と決めつけるのは、まだ早いな」
神田は深く頷いた。
「誰かのための、その一歩。それが、この場所の原点なんだ」
今回のエピソードでは、異世界という舞台で「現実の介護でよくある迷い」や「判断の揺らぎ」をテーマに描きました。
介護って正解がないことも多くて、日々の積み重ねの中で「自分はこれでよかったのか」と振り返る瞬間があります。
異世界でも、それは同じなのかもしれません。
神田たちが選ぶ一つ一つの行動が、誰かの生活を支えたり、守ったり、時に悩ませたりする――
そうしたリアルな葛藤も、ファンタジーの中で丁寧に描けたらと思っています。




