シュレディンガーの猫
この数十日の間な〜にをしてたかって…?
天啓がね、降りてきたんだよ…だからしょうがない。
…ただし、提出物…テメーは駄目だ…ッ!!
「あ、団長!!お帰りなさいッ!!」
「お帰り、何かあった?」
帰還して早々に出迎えてきたミレア達に、ミストルティンは笑顔で応える。
「えぇちょっと…貴女達は特に問題ないわね?」
一瞬、ほんの少しだけ笑顔が崩れかけたのをミレアは見逃さなかった。
「え?はい…団長は何か…」
「…いいえ、少し面倒なことになっただけよ…」
「なら、私も手伝いーーー」
「ーーーその必要はないわ…これは、私が解決しなくちゃいけないの…」
「そう、ですか」
その言葉にミレアはまるでご主人に構ってもらえないわんこの雰囲気を感じさせるように肩を落としてしょんぼりする。
「ごめんなさいね、ミレア…ハデス、キルシュガルドを私の執務室に来るよう呼んで来てくれるかしら?」
「…」
ハデスはコクリと小さく頷くと、影に入って行きその姿が消えた。
ミストルティンは二人が居た部屋から出て、足早に自身の執務室へ向かう。
「絶対に…思い通りにはさせないわ……ッ」
廊下を渡りながら、ミストルティンは確固たる決意を胸に歩き出した。
………
「それで…話って何だ?」
「実は…」
ミストルティンは、ミレアが担当していた街がやられたこと、その主犯が魔王であることを伝えた。
「…おい、ならあの“鍛冶師”はーーー」
「…」
「死体も魂も確認は出来なかった…けど…」
「けど…何だよ」
「ーーーあれだけの規模の魔法で、生きていられるとは思えない」
「…ミレア、そこにいないで入って来なさい」
「…は、ぃ…」
今にも掠れて消えてしまいそうな震える声で、ミレアは返事をして部屋に入った。
「あの、さっきの話って…」
「…ミレア」
「あ、はい…」
そして、ミストルティンは胸の苦しさを堪えて残酷な事を告げる。
「…聖剣を抜きなさい」
「え…?」
「…貴女の聖剣はあの子との絆で力を行使できるんでしょう?そして、聖剣の力を使えるなら、彼はまだ…」
「あ…」
その言葉を聞き、ミレアは聖剣を抜こうと柄に手をかけ…ただけに終わった。
「ミレア?」
「はぁ…ッ…」
キルシュガルドは何故聖剣を抜かないのかと疑問に思ったが…ミレアの顔を見て全てを察した。
「…ッ」
…怖気づいていた。聖剣を抜くことで、確かに生死は簡単に分かり、生きていると分かれば希望と喜びで満たされるだろう。だが、もし死んでいたら?彼を失った時の喪失感と絶望で、ミレアの精神はきっとズタズタに引き裂かれる。その恐怖がある時点で、ミレアが聖剣を鞘から抜ける訳がないのだ。
「…すみ、ません…」
「…いいえ、大丈夫よ…今日はもう休みなさい」
「…はい」
ミレアが部屋を出るのを確認して、ミストルティンは考え込む。
(…少し焦りすぎたわ…あの子が誰よりも辛いから、無理させる訳にはいかないのに)
………
「…?ミレアちゃん、どうかしたの?」
「いえ、何でもないんです…何でも」
ミレアは心配そうに声をかけるヒイナにそう言って、自分の部屋に戻るとすぐにベッドに潜り込む。
「…アスタ…」
少女は一抹の不安と恐怖を抱えて、逃げるように眠りについた。




