表裏反転
…申し訳ない…本当に………謝罪の意を込めてテスト期間中だけど投稿するぜッ!!
「えぇ…?」
(何あれ…ファンタジーだしあり得なくもないけど、本当に…えぇ?)
目の前で起きたあまりにも異常な攻撃に、ヒイナは若干引いていた。それもそうだ、現状自身の最大火力で殴っても倒れなかった黒竜が、ミレアの放った極太レーザーによって頭部が消し炭にされて消えたのだから。
そんな中、ミストルティンは地面にしゃがんで何やら喋っているのが遠目に見えているが、その意図は分からなかった。
「…ヒイナ、ミレア。貴女達は急いでここを離れて王都へ帰還しなさい。私はちょっと急用が出来たから」
「うん、分かった」
「え、私もついて…」
「駄目よ、これは命令」
「…分かりました」
ミストルティンの言葉に、ミレアはしゅんとしながらもヒイナと共に王都へと駆け出した。
………
「…で、本当なの?ハデス」
「…間違いない」
ミストルティンの足元の影から、漆黒のローブを着ている少女…ハデス・ヴォルザードが這い出てきた。
「近くに怪しい、気配はない、だから、魔王の狙いは私達じゃ、無い…でも、王都近郊で、大規模な死が発生してる」
ミストルティンは、全力で駆けながらハデスの報告を聞く。それは、そこに住む人々のためにでもあるが…
「…なんで、ミレアが担当してる都市でそんな事が…」
一番はやはりミレアのためであるのも確かだ。だが何よりその都市には重要な人物がもう一人いる。その人物を助けるために、ミストルティンは身体に力を込め、走り抜ける。たとえ、己の命と引き換えにしてでも助けなければならないのだ。
…だが、ミストルティンが到着した時には全てが終わっていた。
日が傾き、黄昏時とも言える時間帯になったその街は火に包まれ、血に彩られ、ナニカが焦げた匂いや腐敗臭、血と肉の匂いなどが周囲に満ちていた。
「間に合わなかった…ッ」
「…後悔は、後にして…」
ミストルティンは怒りのあまり唇の端を噛み締めて血を流すが、ハデスは冷静に話しかける。その視線の先には…“身体の外と内が反転している人だった肉塊”が至るところで悶え苦しんでいた。
「そうね、少し取り乱したわ…ハデス、貴女なら何とかできるでしょう?」
「…出来るのは、精々苦しまないようにするだけ…」
「それだけでも十分。私は、これをやった奴をぶっ殺しに行くから…あとは頼んだわよ」
「うん」
ミストルティンは風を纏って宙を跳び、民家の屋根へ着地すると、魔力の濃度が一番濃いい地点へ駆け出した。
「ふぅ〜…」
それを見送ったハデスは、アイテムボックスから青い炎を灯したランタンを取り出し、もう片方の手のひらを地面にのせてそっと息をはいて詠唱に集中する。
「『…我は死を尊ぶ者、生に苦しみ死を望む腕にこそ、その手を差し伸べる死…故に、冥府の門は貴方を迎え入れる…』《ゲート・オブ・タルタロス》」
すると、そこを中心にして紫色の魔法陣が展開されていき、その範囲に入った肉塊から白い光が漏れて魔法陣へと吸い込まれていく。その力は生きる事に苦しみ、死を望む者にだけ一切の苦痛から開放し、安らかな死を与える。そして、もう傷つくことも苦しむこともない永遠の平穏と安寧を約束される地へと魂は送られる。それこそが、ハデス・ヴォルザードの本来の役目なのだから。
………
都市の中心部に建てられた教会の塔の上に、二人の人物がいた…
「…おや、まさかあの主も一緒にいるとは…想定外だな」
「その口ぶりだと、どうやら彼女の正体を知っているのね………貴方は一体、何者?」
ミストルティンは、鞘から引き抜いた細剣の切先を目の前の女に向ける。その女は、長い黒髪に白黒半々の仮面をつけていた。
「別に名乗ってもいいんだが…それよりも、王都の守りをキルシュ・ガルド一人に任せるとは…」
「それの一体何が問題なのかしら?」
「いやなに、それなら王都で実行すれば良かったのではないかと少し悩んだだけだ。今の私では王国三強を二人も相手にするのは少し厳しいからな」
聖堂騎士団長であるミストルティンの威圧に対して、女は全く怯んだ様子を見せない。一般人であれば心臓が止まっていても可笑しくないというのに…
「で、貴女の目的は?」
「そんな事教えるわけがないと、いつもならいうが…そうだな、今日は気分がいいから特別に教えてやろうーーー仲間を増やす為だ」
意味が分からない、仲間を増やす事が目的なら何故殺すような真似をする?ミストルティンはその疑問に全く解が出せないでいた。
「ところで、聖堂騎士団長様は魔王が生み出される条件をご存知だろうか?」
「…生物が怒りや絶望とかの負の感情を爆発寸前まで溜め込んだ時に殆ど奇跡のような確率で起こることでしょ?」
実際、今でも魔王が誕生した当時の書物や文献が残っており、状況的に考えてもそれが条件であると言うのが世の常識だ。だが、女はそれにNOと答える。
「それは答えとしては不十分だ。それだけで魔王が生まれるのなら、たったの4人だけのはずがないだろう?正しくは、負の感情を爆発させたある程度の強さを持つ者に寄生するといったほうが正しいか…」
「寄生…?一体どういう…」
「おっと、まだ完全ではなかったのだった…最近は大人しくしていたから…」
何かぶつぶつと呟き出した女に対して、ミストルティンは細剣を構えて風魔法で足音を消し、背後に回り込みながら一気に近づく。そして、その隙だらけの背中へ《千剣》を叩き込もうと………だが、急にバックステップで女から距離をとった。
「…ほう…今のを躱したか」
「一瞬だけ見えたのよ…貴女の周りを強力な魔力が覆ったのを…ね。どうせ、触れたら反転させられるんでしょ?表裏の魔王さん?」
ミストルティンの予想は正しかった。
『表裏の魔王』である彼女の固有能力《表裏反転:オモテウラ》は自身から半径約1メートル圏内に侵入した全ての生命を反転させる効果がある。もし踏み込んでいれば、外の人だったモノと同じ末路を辿っていただろう。
「ーーーま、近づかなければいいんでしょ?」
ミストルティンはスキルの効果を《飛剣》に乗せて、斬撃を白黒の仮面をした女へと飛ばす…
「《表裏反転:カガミウツシ》」
直後、表裏の魔王へ向かうはずだった斬撃は目の前に現れた鏡のような壁にぶつかると、中に吸い込まれていった。程なくしてその鏡壁の面が揺らぎ、そこから先程の斬撃が今度はミストルティンへと迫る。それを細剣で全て弾きながら接近して、《風花狂風》を乗せた《千剣》を起動する。
「…ッ」
恐るべき風の刃が、左上から右下へ細剣の軌道をなぞるように振るわれて表裏の魔王を斬り裂かんと迫る。それら全ては、表裏の魔王が操る反転の力の前では無意味と思われたが…
「っ…」
1つ…たった1つだけ、斬撃が表裏の魔王の喉元に迫った………だが、彼女はそれを片手で払うだけで無効化した。
「む、少々威力を見誤ったか?いや、違うな…」
表裏の魔王の手の甲には、薄っすらと切り傷がついて血がほんの少し滲んでいた。これは、ダメージを与えたと喜んでいいのか、それとも切り札である《千剣》を使ってもたったの一撃しか入らなかったと悲観すればいいのか…そんな中、仮面の女はミストルティンから一気に距離を取る。
「今回の目的に、貴様の始末は含まれてないからな…」
「逃がすわけないでしょッ!!」
仮面の女が何もない空間に手を触れると、そこから亀裂が発生し、その向こうには別の空間が広がっていた。それを知覚した瞬間、ミストルティンは駆け出した…が
「ーーーそうそう、お前の弟子…ミレアといったか?アレは魔王として中々良い素質を持っているぞ?」
その言葉に、ほんの少しだけミストルティンの身体が硬直する。その一瞬が、彼女…表裏の魔王を逃す失態に繋がってしまった…
「…くそッ!!」
滅多に苛立たないミストルティンでも、こればかりは我慢できなかったのかそばにあった柱に拳を叩きつける。勿論、その柱が耐えきれるはずもなく鈍い音を響かせて砕け散った。そこへ、軽くジャンプして教会の屋根に飛び乗って現れたハデスと合流した。
「…?ミストルティン、顔色が悪い…何かあった?」
「えぇ、大問題よ…今回の主犯格は“表裏の魔王”で、ミレアが狙われているわ」
「むぅ…こっちも問題…というより、変なことが起きてる…」
変なこと?と、疑問に思うミストルティンにハデスは先程まで使用していた青い火の灯ったランタンを見せる。そのランタンはハデス専用のアイテムで、魂を集めれば集めるほど炎が大きくなるのだが…
「どういうこと?全く魂が集まってないじゃない」
そう、そのランタンで燃える灯火はあまりにも…小さく、弱々しい。そして、それこそがハデスにとっての異変なのだ。
「私は、ここに来るまでずっと魂を集めてた…だけど、回収する瞬間、元の肉体に魂が戻される…今の私じゃ回収出来ない…」
「…今の貴女じゃ無理なのね…」
「…使う?」
ハデスの問いかけるような、それでいて試すような言葉に、ミストルティンは少し悩むが…すぐに結論を出した。
「…いいえ、アレは貴女にとって切り札であり、最後の手段よ?使うなら対魔王戦…それも、紅城か表裏の魔王に使うのが一番いい………個人的な感情を抜きにすればだけど」
「…分かった」
その答えは、きっとハデスにとってはベストな回答では無かったかも知れない…だが、ハデスの切り札はこんなところで…言い方は悪いが、魂を集めるためだけに使うにはあまりにも強力で…今後ハデスを戦力として使えなくなるという事でもあるのだ。
「…」
ミストルティンとハデスは、一抹の不安を抱えたままヒイナ達が待つ王都へ帰還するのだった…
………
ミストルティンから逃げ遂せた表裏の魔王は、察知されないよう隠れ家として使っている古い民家に入る。
「ーーーで、思惑通りに事は運んでるの?」
「…王都近郊で待機していろと言ったはずだが?」
そこには既に先客がおり、フードで顔をすっぽりと隠した小柄な少女が足を組んでふんぞり返っていた。表裏の魔王はこの場に彼女がいることに不満そうな声を漏らす。
「はいはい、ちゃんと指示に従ってあげるんだから、これくらい別にいいでしょ?私が何処に居ようと私の勝手…元々、同じ魔王だからって理由で集まっただけでしょ?」
「…」
少女はフードからはみ出ているエメラルドグリーン色の髪を指で弄りながら、表裏の魔王の小言をあしらう。
「大体、なんで私なのよ…ルフィネスの人形達でどうにかなるでしょ?」
「いや、彼女は面倒くさがりだからな、そう何度も命令を聞くわけが無い。それに、勇者の実力を見るためには必要だった…しかも勇者の一人の能力はルフィネスでは相性が悪すぎる。その点、最強の防御力と一撃必殺の貴女と貴女の眷属が一番相性がいい…」
「まぁ、そういうことならいいわっ!!私が直々に………叩き潰すわ」
そう言って民家を出た少女のフードが、風によって取り払われる。そこには、小さな尖った耳に美しいエメラルドグリーンの髪をした幼い少女…である、城塞の魔王がいた。彼女は小さな可愛らしい笑みを浮かべるが、その内からどす黒い悪意が滲み出ている。その背後には、かつて地上で繁栄していた大いなる者が付き従う。
そうして、一人の少女と、それに付き従う大いなる者は、確固たる意志を持って敵を打砕くために歩みを進めた。
Qなんでコイツ敵に重要そうな話すんの?
A悪足掻き




