援軍
「えっ、ヒイナさんって異邦人なんですか!?」
「うん、そうだよ?」
「ご会談中申し訳ありませんッ!!」
ヒイナとミレア達が会話している最中に、一人の騎士が声をかけてきた。
「別にいいわよ…何があったの?」
ミストルティンは騎士の男に話す許可を出した。騎士団では基本的に決められた時間に報告をするのがマナーなのだが、緊急事態などは例外だ。
「はっ!!実は先程、王都近郊のダンジョンにてスタンピード発生の予兆があったと、付近にある村を騎士4名が死守しておりますッ!!」
「そう、なら急がないとね…ヒイナ、ミレア。丁度いいから一緒に行くわよ」
「え…?」
「はいっ!!」
困惑しているヒイナをよそに、ミレアは名前を呼ばれた事にぱぁーっと目を輝かせて後をついていった。
「場所はここから西門を通ってまっすぐ行けばつくわ。それにしても、近くに村がある所でなんて…」
「騎士団長、すぐに馬を…」
「必要ないわ、走ったほうが速いもの」
「しかし、それでは聖堂騎士としての…」
ミストルティンはガンッと石畳の地面を力を入れて踏み、文句を言おうとした騎士を黙らせる。
「いい?我々聖堂騎士は、近衛騎士とは違って国の為に動かないのだから品位など気にする必要はないの…聖堂教会は民の為に動くのよ?国の品格なんて知ったことではないわ」
「…はい、分かりました」
ミストルティンの言葉に、騎士は何故か素直に頭を下げて言うことを聞いていた。
「私は近衛騎士団長だからな〜、ついて行けねぇんだよなぁ…」
「…ちょっと根に持ってるの?」
ミストルティンの疑問にキルシュガルドは「さぁどうだかな?」と言ってはぐらかす。
「さぁ、行くわよ?」
「了解ですっ!!」
「うん!!」
…その頃、村の前では激戦が繰り広げられていた。
「隊長ぅ〜、もう無理ですよぉ〜…」
「文句を言うなッ!!手を動かせッ!!」
弱音を零した金髪のショートヘアーの女騎士を、隊長と呼ばれた騎士の男が怒鳴りながら目の前に迫るグレートウルフを斬り倒していく。
「隊長、リホは村に《ホーリープロテクション》を使用しながらですので、仕方がないかと…」
「そうですよぉ〜…」
青髪の騎士が隊長を諭すように話す。それに対して、隊長は「そんな、ことはッ…分かってんだ…ッ」と、ゴブリンマジシャンが放った炎の矢を叩き落としながら会話をする。《ホーリープロテクション》とは聖魔法の一つで、一定の範囲に守護領域を展開し、その中には魔物が侵入出来なくなるというものだ。ただし、発動に必要な魔力が多く、展開している間も魔力を消費する。さらに、あまりに強いダメージを受けると強制的に解除されてしまうデメリットがある。今は単体でそれを打ち破れるような魔物はいないが、何にしろ数が数だ。
「ストちゃんが咄嗟に、少数ずつしか通れないようにしてくれたから良かったですけど〜…」
「…《ストーンバレット》」
ストと呼ばれた茶髪の女騎士は、土魔法で作り出した石礫でゴブリンの頭を撃ち抜いていく。ダンジョンの入り口には、彼女が魔法でハの字を逆さまにしたような石壁を作り出して魔物が少しずつ通れるようにした為、対処が追いついているが…
「まだ大して強い魔物は出て来てないのが救いか…」
もし、石壁を砕くような火力を持った魔物が出て来たら…隊長はそんな最悪の未来を想像したが、すぐに思考を目の前の敵に戻した。そんな事を考えても、援軍が駆けつけるまで耐えるしかないのだから。
だが…
「おいおい、嘘だろ…?」
石壁が砕け散った。それだけを聞けば石壁が脆く聞こえるだろうが、もしそれが厚さ5メートルであったとしても、はたしてそう思うだろうか?
頬に流した冷や汗を、重々しい風がまるで嘲笑うかのように撫でた。その男の視線は、石壁を地面ごと抉った砂埃から現れた一つ目の怪物に向けられていた。
「さ、サイクロプス…?」
「ugoooooooo!!!」
「隊長、逃げて下さいッ!?隊長ッ!!!!」
果たして、誰が呟いたかの言葉にサイクロプスと呼ばれる一眼鬼の怪物は、咆哮を上げて目の前にいる矮小な人という虫に、その巨大な腕を振り…「《風花狂風》」その時、隊長と呼ばれた男の横を駆け抜けて現れた少女が剣を抜き放った。その刀身からはまるで嵐を放出しているかのように緑色のエフェクトが渦を巻いており、その狂風はいともたやすくサイクロプスの腕を削り、千切り飛ばした。
「gouuuaaaa!?!?」
「《飛剣》《風花牙突》」
少女が前に一歩踏み込んでスキルを使用して剣を突き出すと、緑のエフェクトが槍のように飛ばされてサイクロプスの胸に大きな風穴を開けた。
「ugoooouu………」
サイクロプスは膝を屈し、胸からポリゴンを吹き出しながら地面に崩れ落ちた。それと同時にドロップアイテムを残して砕けて消えた。
「ふぅ…間に合ったかしら?」
「だ、団長…ありがとうございます…」
隊長が頭を下げたのを見て、他の騎士も慌てて膝をついて頭を下げる。
「はぁ…緊急事態なんだから、そんな事しなくていいわ」
ミストルティンはため息をつきながらも、背後から飛びかかってきたグレートウルフを振り向きざまに斬り裂き、さらにその後ろに隠れて奇襲してきたもう一体も一撃で仕留める。
「湧いてくる上位種は私が片付けるから、他の魔物は任せるわ」
「団長、恐れながら…我々4名だけでは…」
「あら、何を勘違いしているの?」
団長の言葉に、騎士達は首をかしげ…その横を黄金の雷光と青いオーラを纏った何かが通り過ぎた。その何かは今しがたダンジョンから現れたサイクロプスヘ向かっているようだった。よく見ると、その何かは武器を握った少女だった。
迫る少女に対して、サイクロプスはよほど目障りなのか潰そうと腕を振るう…が、それをジャンプで回避してその腕を駆け上る。
「はぁッ!!!」
少女は先程よりも速度が上昇しているのか、わずかな間に首元まで接近し、回転をかけながら下から掬い上げるようにして己が武器を振り抜いた。その刃は容易くサイクロプスの首を斬り裂き、致命傷を与える。
「ヒイナさん、後退して下さいっ!!《ホーリーランス》ッ!!」
後ろから追いついてきた金髪の少女のその言葉に、ヒイナと呼ばれた少女はサイクロプスの肩から飛び降り、空中で身を捻りながら綺麗に着地する。直後、金髪の少女の手から純白の槍が五本出現して、射出される。その槍はサイクロプスを串刺しにし、ポリゴンへと変えてしまった。
「援軍は私以外にもそこの有望な二人よ…それでも、駄目かしら?」
勿論、騎士の男は目の前であれ程の実力を見せられて、否定など出来るはずも無かった…




