蠢く悪意
はい、またお久しぶりですね…何から書こうかと瞑想しているうちに、凄い時間立ってました…申し訳ない
ヒイナは、たった一人の少女に対して苦戦を強いられていた。
「はぁッ!!」
「遅い…」
流星状態のヒイナに対して、黒いフードを付きのローブを着た少女は難なく対応している。
繰り出されるスキルによる攻撃は、全てギリギリの所で回避される。スキルを使用しての攻撃は様々な恩恵があるが、殆どのスキルはある程度決められた動きしか出来ないという欠点がある。その為、熟知している者相手には使い勝手が悪い。それに気づいたヒイナがスキルを使用せずに、下から掬い上げるようにして斜めに振るわれた十六夜を、少女は左手に装着した鉤爪で受け流し…直後、少女は足を縺れさせた為、僅かに体勢を崩す。
「そこだッ!!」
ヒイナは、〈コンバットストラクト〉を使用して突きを放った…が、
「…わざと、だよ…?」
ヒイナの放った黄色のエフェクトの纏った突きを、少女は半歩身体をずらすだけで回避し、逆手で握っていたナイフをヒイナの首へ振るう。それに対して、ヒイナは習得した〈レコグナイズ〉を使用。それによって、思考が加速し、首元に迫るナイフの切っ先を躱す事に成功。お返しとばかりに、左手に握った十六夜の刃の向きを変えて身体を捻りながら外から内へ斬り返した。
「…こっちは、がら空き…」
少女はナイフの峰をヒイナの首に掛けると、ヒイナから見て右手側から駆け抜けて、ぽすんっと背中に跳び乗った。ヒイナは、背中に乗っている少女を呆然と見つめて、負けたという事実を理解すると同時にため息をついて脱力した。
「…まだまだ…」
「何であそこから回避できるの…」
「ん…私は、凄いから…」
背中でドヤ顔をする少女…ハデス・ヴォルザードにヒイナは苦笑を浮かべる。この少女は、以前ヒイナがクッキーをあげた迷子の子供だったのだ。
ミストルティンの提案で、ハデスは一切のスキルを使わないという縛りを設けて手合わせをしているのだが…それでも、ヒイナはまだ一度も勝つどころかハデスに刃を掠らせる事すら出来ていない。
「ハデスはこの国の諜報部隊であり暗殺部隊の隊長だからな」
「え?そんな重要な事を私に教えていいの…?」
キルシュガルドの言葉に、ヒイナは慌ててハデスの顔色をうかがう…が、彼女は全く動揺していなかった。
「だから…?」
「え…?」
「仮に、バレても問題ないから…」
「部屋全てに光源を設置して一切の影を消さないと、貴方の監視からは逃れられないものね」
ミストルティンはそう言って、他の騎士への練習試合を終えて戻ってきた。何時間も動いているというのに、彼女は汗すら流しておらず涼しい顔をしていた。
「ん…?」
「どうしたの?ハデス?」
何かに気づいた様子でヒイナの背中から飛び降りたハデスは、訓練場の入り口…正確には、見られている事に気づいて慌てて隠れた少女を見つめている。
「じー…」
「何やってんだ?アイツ…」
「はぁ…またあの子は…ミレア、人見知りしてないで早くこっちに来なさい」
「ひ、人見知りなんてしてませんっ!?」
ミストルティンにそう言って反論したのは、金髪のショートボブに淡い青色の瞳をしたミレアと呼ばれた少女。
「あら、そうなの?」
「そ、そうですよっ!!」
「…じゃあ、何で隠れて、たの…?」
「うぐ…」
ハデスのツッコミに、ミレアは反論できずに目を泳がせる。それを見てミストルティンは頭を抱えた。
「はぁ…そんな調子でちゃんと仕事できてるの?」
「できてますよっ!?流石に仕事の時は抑えてますっ!!」
「なら…挨拶できるわよね?」
「う…」
「えーと…私はヒイナ、職業は剣士です」
「は、はい!!私はミレアですっ!!職業は聖騎士で聖堂騎士団の副団長をしています!!」
こうして、少し緊張気味のミレアはヒイナと出会った。
そして…
ヒイナがミレアと出会った頃、グラミリオ王国の王都から少し離れた街にて、とある女性がいた。その女性は黒いローブを着ていて、街の入口で倒れていた。そこへ、警備兵の男性が駆けつける。
「あんた、大丈夫か?」
「えぇ…少しこの街に用事があって…ごほっ、ごほっ…」
「お、おい!?お前ら、担架を持って来いっ!!」
女性が咳き込むと、口から血を流した。見るからに非常事態だと考えた警備兵は、他の仲間と協力して身元確認をせずに急いで女性を街に入れてしまった…
「今医者を連れて来るからなッ!!」
「は、はい…うぅ…」
警備兵は、休憩スペースに女性を休ませて医者を呼びに行った…扉が閉まり、男が離れていったのを足音で確認した後、女性は起き上がった。
「…案外簡単なものだな…半分ほど舌を噛み切って咳をすればすぐ入れてしまうとは…」
フードのせいで女性の顔はよく見えない…だが、その口元は笑みを浮かべていた。しかしそれも何処からか取り出したのかのっぺりとした白と黒半々に別れた色の仮面に隠されてしまった。
「少々つまらないが、まぁいい…今回は殺す事自体が目的ではないし、何より通信魔法で報告をされて万が一にでも駆けつけられては困る…」
ヒイナ達が知らない所で、ひっそりと…おぞましい悪意は蠢いていた…




