アオユキ:オリジン
「…嬉しそうね、青雪」
「!?」
突然背後からかけられたその声に青雪はビクッと体を跳ねさせる。
「むぅ…気配消して、背後に立たないで…」
「あらいけない、つい癖で…てへ♪」
青雪は「うわぁ…」という顔をしてあからさまに引いている。見た目こそ若いが実年齢は…
「それより、“今回は”追い出さずに随分と長く一緒に居たじゃない、気に入ったの?」
「…気に入った…うん、多分」
………
深蒼 青雪という少女は天才である。
並外れた記憶力や繊細な作業をこなす手腕を持っている…だが、彼女の優れているのはそれだけじゃない。
彼女の一番の強みは並列思考という技能だ。
並列思考というのは、簡単にいえば頭の中に自分が何人もいて、それぞれが別の思考をしている。
そんな技能を持つ彼女がもし、VRゲームをしたら…
【ファンタジー・アクテリオン】というゲームがあった。
そのゲームの内容として、プレイヤーが異世界を巡り冒険するというものだった。重要なのは内容ではなく、プレイヤーが何か悪行を働くと賞金首となるシステムが導入されていること…アオユキにとってはそこが重要だった。
青雪は、最強の暗殺者であるリユニオンが大好きだった。リユニオンは暗殺者だが、悪というわけではない。
過去にリユニオンは騎士に裏切られ、その日から騎士というものを信用できなくなってしまった。だから、役に立たない騎士に代わって、自分が悪を討つという行動に出た。アオユキはそれに習って賞金首を狩りまくった。
いつの日か、ファンタジー・アクテリオン内でアオユキはリユニオンという異名で呼ばれていた。アオユキはそれが堪らなく嬉しかった。
ある日、アオユキはとある“噂”を聞いた。
原因は不明だが、アルギリスタ都市付近にリユニオンに似たNPCが現れる…というものだった…
「…貴方が、私の真似っこしてる人…?」
「!?」
突如として背後からかけられたその声に、アオユキは急いで距離をとる。
そこには、自分がアニメで見ている姿と全く同じ…黒いマフラーを口元まで上げ、全身黒ずくめの少女…リユニオンだった。
「…人の趣味に、とやかく言う気は無い…けど…」
「…っ」
「迷惑」その言葉を聞いた瞬間、アオユキは現在使える加速スキルを同時にフル稼働する…その数、56種類。
途轍もない速度でリユニオンに肉薄したが…気づいた時には世界が反転し、地面に叩きつけられていた。
「うぐっ…」
「…思ったより、早い…」
「ま、だ…っ」
アオユキは、リユニオンへナイフによる刺突を連続で繰り出すが、軽く避けられてしまう。
「…もう、終わり?」
「…まだ…終わってない」
それから、アオユキはリユニオンと戦いを繰り広げていた…というより、指導されている様子だった。
「…はあっ」
「…腰が少し高い…あと、目線が真っ直ぐ過ぎる、フェイントを混ぜるべき」
「…こう?」
「そう…呑み込みが早い…」
それから、アオユキとリユニオンはファンタジー・アクテリオンとの関係はサービス終了するまで続けられた…
夜が明け、光が二人を優しく包み込む。
「…そっか、もう、会えないの…」
「…うん…」
「…最後に、一つだけ…」
「…何?」
リユニオンはアオユキの肩に手を回して、額同士をくっつける。
「…貴方は貴方、私は私…だから、真似なんかしなくても、大丈夫…それでも、貴方じゃどうにも出来ない事が起きたら…」
リユニオンは、アオユキの髪を少し上げて…その額に口づけをする。
「うにゅっ!?」
「私が貴方を助けてあげる…」
リユニオンの優しく微笑んだ顔を最後に、アオユキの視界が暗転する…
「…また、いつか…」
リユニオンは青い残光に優しく触れ…黒いマフラーを口元まで上げて、一人屋根から降りた…
アオユキの会ったリユニオンは、ただのNPCなのだろうか…?




