恐怖するが故に、己の存在は刻まれる
割りとビルドワールドにとって重大な真理の情報をポイポイ吐き出してる奴がいるとか…はて?誰のことだか分かりませんねぇ〜(・∀・)
『ーーーーーー』
使者はミレアの上にいたアスタへ身体を向けると、次の瞬間には目の前まで接近しており、その歪な鉤爪を振り被っていた。
「くっ…」
勿論、アスタの身体能力であればギリギリ避けることは出来る。しかし、避ければ下にいるミレアに当たるかも知れない。その可能性がアスタの脳裏を埋め尽くし、可能な限り身体を強化してミレアを守るように抱きしめてしまった。そして、振り下ろされた鉤爪がアスタをーーー
「ーーーはぁっ!!」
ゴオッ!!という風の音と共に横薙ぎに振るわれた細剣が黒い鉤爪と交差し、空中で身体を回転させながら、まるで背負い投げるように再度振るわれた細剣によって弾かれた。
「遅くなったわね…って、何でこんな時にミレアを抱き締めてるのかしら?」
「えっ、いや…」
「はぁーーー…まぁ、いいわ…それより、コイツを何とかしないとね?」
突然現れたエルフの少女…否、聖堂騎士団長であるミストルティンに警戒しているのか、黒い怪物…深淵の使者は距離をとって様子を見ている。
「ヒイナ…と、そこの二人はどうしたの?」
「いや、ちょっと…状態異常で、動けなくて…」
「私も、同じく…」
「こっちも〜…」
「それって、物理系?それとも精神系?」
「えっと…多分、精神系です…」
「ぐぬぬぬっ…動けな〜い…」
「それなら…〈ステイブル・マインド〉」
ミストルティンは深淵の使者から目を逸らさずに魔法を呟くと、ヒイナ、クロエ、ネイルの身体を白い光が包み込んだ。
「あ、動くようになった…」
「はぁ…助かりました」
「はぁ〜、やっと動けるよ〜」
三者三様の反応をしながらも、それぞれ気を取り直して新たに現れた敵へ己の武器を構える。
『…』
敵である深淵の使者は、ふらっと揺れたと認識した時には、既に至近距離まで接近しており…その狙いはアスタへと向いていた。
「…ッ!!【風聖剣:シルフィード】〈ウィンド・アクセル〉!!」
アスタを包むようにして淡い緑色のエフェクトが纏われ、その身体を加速させることで鉤爪を回避する。だが、完全には避けられなかったのか、胸元の服を少し裂かれる。
「〈剣聖領域〉!!」
その言葉と同時に、アスタは聖剣を複数放り投げる。すると、投げられた聖剣は地面につくことなく空中で停止する。
「【水聖剣:ウィンディーネ】〈ウォータースラスト〉【炎聖剣:ブライム】〈フレアブラスト〉!!」
流水を纏った水聖剣を鉤爪で防いだが、同時に襲いかかって来た炎聖剣に対処できず、剣先が着弾事により発生した炎のブレスに呑み込まれる。しかし、黒煙の中から無傷で姿を現し、掬い上げるように鉤爪を振り上げようとする。
「〈レジストポスチャー〉!!」
「〈光芒一閃〉!!」
「〈鬼装暴撃〉!!」
間に割って入ったヒイナがスキルを使用し、その攻撃を受け止めると、ネイルの放った光を纏った高速の矢とクロエの会心の一撃が叩きつけられるが、全く怯む様子なく腕を振われた事によって、ヒイナとクロエは弾き飛ばされる。
「…いくわよ?〈風王牙穿〉!!」
背後から迫ったミストルティンの細剣が荒々しい風を纏い、深淵の使者へと突き立てる。それは弾かれる事なく刺さり、風穴を空ける。
『ーーーーーーッ!!!!!』
その直後、深淵の使者から生々しい音と共に鎧にあるフルフェイスのような頭が出現し、キイイイィンッと甲高い叫び声のようなものが黒いエフェクトと共に周囲へ響き渡る。それと同時に、空いていた風穴も塞がってしまった。
「うわっ、また…」
「これは、ちょっとキツイです…」
「もうッ!!…これ、鬱陶しいッ!!」
ヒイナ達は案の定行動不能になってしまったが、アスタと攻撃を中断して離れていたミストルティンは特に問題ない様子だった。
「…何となく分かったわね?」
「はい、あの子達って見た感じ近接特化でINT値が低いと思うんですけど…もしかしてそれですかね?」
「あら、確かにそれもあるわね…私はレベルだと思ったのだけれど」
その予想はどちらも正解である。
深淵の理…それも第一の真理である恐怖に遣わされた使者は、その権能をある程度行使することが可能であり、【心身喪失】と名付けられたそのれは、一定以下のレベルとINT値の全ての生命に対して恐怖状態を付与するというもの。
恐怖状態になると、HPとMP以外の全ステータスが減少し、心拍数が急激に増加してSTMの消費が大きく増加する。その他にも脱力状態や視界が狭くなるなどのデメリット効果がある。
「さーて、どう倒して…ん?」
『…』
ミストルティンは、違和感をいち早く感じ取った。先程までとは違い、使者はこちらに接近することなく、ただ鉤爪が生えた手をこちらへ向けるだけでーーー
「ーーーッ!!」
その爪の先に赤黒い炎が灯ったのを認識した瞬間、ミストルティンはヒイナ、クロエ、ネイルを風魔法で吹き飛ばしながら自身も跳躍し、アスタはミレアを抱えて空中へ離脱する。その炎が射出されて地面に着弾した瞬間、爆音とともに周囲へ赤黒い炎が着火した。
「【水聖剣:ウィンディーネ】〈アクアレイン〉!!〉」
アスタの聖剣から淡い水色の光を放つ水が、魔法陣から豪雨の如く降り注ぐ。しかし、その赤黒い炎は消えるどころかさらに勢いを増した。
「くっ…」
「アスタ、中断して…〈飛剣〉〈風王威〉〈風花狂風〉!!」
空中で体勢を整えたミストルティンがスキルを使用し、剣身に嵐のようなエフェクトが渦巻き、〈風王威〉によってその威力と範囲が増加、さらに〈飛剣〉の効果によって剣身から射出され…途轍もない轟音と共に、赤黒い炎と恐怖の使者ごと地面をけずり飛ばした。
『…』
「これも効かないのね…」
地面に着地したミストルティンは、さほどダメージを受けたようには見えない使者に鋭い視線を向ける。
恐怖の真理に遣わされた使者は、その権能を使用することが出来る。つまり、その使者はあらゆる恐怖を行使することが可能なのだ。故に、かつて恐れられた第九の理が使用した、一度触れれば消えることのないという【妄執の炎】を使うことに、なんの問題もない。
…|あらゆる恐怖を行使出来る《・・・・・・・・・・・・》という、ふざけたような能力こそが、第一の理である恐怖こそが最強の真理と位置づけられた由縁である。
ーーー真理の中でも最凶の力を持つ恐怖が、幾星霜の時を経て今を生きる者達へ再び己の存在を刻み込む…
…どれだけ生き足掻こうとも、恐怖から逃れることなどできはしない…
「君強すぎない?」
真理:恐怖の使者「まさか、一定値以下のプレイヤーやNPCを行動不能にするだけの能力しか持たないとでも?
そんなわけないでしょ、だって恐怖ですよ?
そりゃあ、恐れられてさえいれば第九の理の使用する【炎】や、その気になれば第五の理が撒き散らす【病】を行使することだって出来ますよ。
…まぁ、力が全然集まってないから大して使えないんだけどねw」
っていうのがこの人(?)の言い分です。というか、第五の理の力なんて使われたらヒイナ達じゃ一瞬で全滅するので、早期にミレアちゃんから叩き出したのは割りと最善手だった。




