第四十七話 沢田由依(64)の現状
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少し青の強い紺のスカートにブラウス、薄緑を基調としたエプロンに鶏のアップリケ付き、という出で立ちに身を包んだ、ロマンスグレーと言った感じの髪に黒目の大体十六から十八と言った感じの少女は、路地裏でへたり込んでいた。
「一体ここは何処なのですかねえ」
今後の店の事は弟子たちに任せ、後はのんびりオーナーとしてやって行こうと、一度は手放したあの人たちの実家を買い戻し、そちらに引っ越しも済ませ今日は引っ越し完了初日という事で、帰宅している途中に近道の路地裏を曲がったはずだった。
そこで少しめまいを起こし、うずくまり落ち着いたので立ち上がると、先ほどまでいたはずの路地裏とは、広さも見た目も違う場所に立っていた。
幸いな事に、店の事を任せると言った時に、今までの成果をと色々と弟子たちが振舞ってくれ、あまつさえお土産も持たせてくれたので、今はお腹もいっぱいで、手元に食べられる状態の弁当が有った。
少し乾燥して埃っぽい土の地面、そして周囲の石っぽい物で形作られた建物らしきもの。
最初思ったのは、神隠しにでもあって砂漠地帯かその付近にでも飛ばされたのかしらという事だった。
路地裏をそのまま歩いていると、夜だと言うのに灯がともり外に光が漏れている建物が有り、少しそこは騒がしかった。
仕方ないので、ひとまずそちらへと近づくと、だんだんと聞こえてくる言葉に覚えがない事に気付き、そしてその言葉が理解できてしまう事にも気づいた。
「しっかし今日は驚いたよなあ。人族の護衛って話だったが、まさか街中で襲うバカがいるとは」
「まったくだ、しかしそいつらもしっかり捕えたから、あとで報奨金も出るし」
「そうそう、おかげで俺たちこうやってうまい飯と酒が楽しめるんだからいいじゃねえか」
あの建物は食事何処らしく、近づくとそれなりに美味しそうな香りが漂ってくる。
ひとまず入り口まで着いたところで中を覗くと、蜥蜴の様な鱗の皮膚をした、蜥蜴が人に進化したような人たちが大量にいた。
「ひぅっ」
私がそう言うと、店の中の人たちが一斉に此方を向いて、何だ嬢ちゃんか子供は家に帰って寝る時間だぞ、迷子なら宿か家に連れて行ってやるが。
がははと言った笑いを上げながら立ち上がり寄ってきた。
悪い人ではなさそうだが、大丈夫だろうか。
「迷子と言えば迷子かも知れませんねえ、とてつもない重度な」
「おいおい、酔っぱらってるのか、それにしちゃ顔色は普通だし」
「どちらかと言えば、可愛らしいんじゃないか。たぶん十八ぐらいだろう」
「ふむん、出来れば色々と伺いたいことが有るのですが、お金もなく」
「おうおう、嬢ちゃん文無しか、それにしちゃ良さそうな服着て、旨そうな臭いをさせてるな」
最後に声をかけてきた一人だけ何やら多少染みや汚れのある白い服を着こんでいた。
そう言って鼻をひくつかせたので、性的な事じゃ無いようだと思い、お土産の弁当を見せた。
「もしかしてコレですか、弟子たちが作ってくれたお土産ですが、果たして此方のお店の中で出して食べていい物なんでしょうか」
そういうと、皆笑い出し気にしないで平気だよ、そもそもそいつが店主でありさぼって俺たちと飲んで居る料理人だからな。
そういやそうだ、早く飯よこせなどと店内にいる客からの文句が届く。
へいへいと戻って行き、厨房に立ち調理を始めた。
私は気に成ったので、それが見れるカウンター席について、調理法などを見ていく。
色々な粉末状の香辛料を使い作り上げていくそれは、エスニック風の料理だった。
立ち上る香りが鼻腔をくすぐり、食欲をそそられお腹がすいてきてしまい可愛らしくくぅとお腹が鳴いた。
そうすると、店主と呼ばれた男は完成した料理を皆のテーブルに配膳し、私の前にも一品置くと隣に座った。
「嬢ちゃん悪いがそっちのとこれを交換して貰えたりしないか」
「入れ物さえ返していただけるならどうぞ」
そういうと弁当箱の蓋を開け、隣の店主の前に差し出した。
差し出した後は、目の前にある料理を頂きますと言って手を合わせた後に食べ始めた。
店主の方も、私の差し出した料理に手を付け始める。
お互いに無言で味わい続け、きれいに平らげた後で顔を合わせ見つめ合う。
「素晴らしく美味しい料理でした」
「それはこっちにも言える事だな、弟子たちが作ったと言っていたがお前さんも料理人かい」
「ええ、何故か向こうの路地に急に飛ばされて、ついでに若返って居たのですがよくある事なのです?」
「若返ったって、いったいいくつだったんだお嬢ちゃんは」
「まあ、もういい年でしたけど六十四ですね」
「ろっろくじゅっ六十四!?どう見ても十八かそこらにしか見えないが」
「そうなんですよねえ、この髪の毛以外はそのぐらいに若返ってまして」
周囲からロリババアなどと聞こえてきたが、気にせずに会話を続ける。
この料理のこと、そして調味料の事などを聞き、それぞれを少し調べさせてもらうと、腕前を見たいと言われたので、材料を分けてもらい、何とかなりそうなものを作ってみた。
それを味わった店主が、先ほどの弁当よりも味がいい、初めて見たり使った食材じゃ無かったのかと聞かれたので、似たような味と食感の物なら知っているので、それと似たような調理方法で何とかしましたよと答えた。
「これだけの物が作れるとは、弟子ってのもあながち嘘じゃなさそうだな」
「まあ、もうどう帰ればいいかわからないんですけどね」
正直帰れるとは思っていない、そもそもここ地球ではなさそうだし。
むしろ問題は文無しってことの方だ、異星人に拉致されて捨てられたのか、神隠しにあって異世界に飛ばされたのか判らないけど、そもそも地球にはこんな生物は居なかった筈。
ふと、異星人に拉致と考えて首元当りとかを触ってみたが違和感は無かった。
とりあえず変なものは多分埋め込まれたりはしていない。
そこでそのことを話そうとしたら、向こうから声を掛けられた。
「お前さん、帰れないって言ったが金はあるのか」
「元居た所のお金しかないですからこちらで使えるかどうか」
そう言って小銭入れを取り出しジャラジャラと出してみせる。
紙幣などは持っておらずクレジットカードやプリペイドしかないのでこれだけ見せればいいだろう。
それを見た店主は、一つ一つを見て首をかしげる。
「うーむ、見た事もない硬貨…でもないな、確か人種の博物館にあったような」
「人種の博物館!そこならこれを知る方が居ますか」
「いや流石に、一万年以上も前の物らしいから知らないんじゃねえかな」
一万年以上前にこの世界に日本人が来たという事か、しかもこの硬貨という事は最低でも百年以内の人物という事に成る。
もう一つの懸念にさしあたり顔を青ざめさせる。
「どうした嬢ちゃん顔を青ざめさせて」
「この硬貨使われ始めてから百年たってないんですよ」
「長くても百年程度の物が一万年以上前の世界にか」
「はい、ですので時間を派手に飛ばされてしまったか、時間の流れ自体が違うせいでもし戻れてもとんでもない事に成ってしまうかなと」
逆浦島状態になるかもしれない、向こうでは数日こっちでは数百年などと。
そこの辺りを考えて一先ず帰ることはいったん諦める事にした。
「それでだ、これは多分そのままじゃ使えない、それこそ古物商にでも買い取らせるしかないな」
「そうですね、ですが伝手も何も無いですし、此方の価値もわかりませんから困りましたね」
「そこで提案だ、この店で暫く住み込みで働かないか、あの腕前だ教えりゃおれの料理も作れるだろ」
「ええまあ確かに、作れますね」
「そんでお嬢ちゃんの料理を代わりに俺に教える」
「それは別にかまいませんが、沢田由依私の名前ですこちらでの名乗りだと由依が名前で沢田が氏です」
「ユイで良いか、俺はソグラ=パドゥセ。ソグラとか適当に呼んでくれ」
「ユイでかまいません。よろしくソーさん」
そう言って握手を交わすと、結構ごつごつしているが肌触りの良い感触に驚いた。
しかし、職と住はこれで何とかなりましたが、服が問題ですねどうしたものでしょう。
「迷子とは大変だな嬢ちゃん、おじさんが手伝ってやろうか」
先ほど店に入ったとキソーさんと一緒に飲んでいた男がやってきた。
「いえ、そう言われましても先立つものもないですから」
「おら珍しい物が好きでな、その小さい銀色のやつ二つくれりゃやってやるよ」
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