第二十五話 気になった冬夜はコウサの様子を見ていたようです
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冬夜は自宅のテーブルの上に置いた水晶を稼働させた。
コウサと他の者たちの声が聞こえてきた。
「よしよし、水晶はちゃんと動作してるな、状況は見えないが音は聞こえてくる」
暫く聞きながら、向こうの状況を解析していると、別次元に部屋を送り込んでそこで会話をしている様子が理解できた、仕組みを完全に理解してこれを使っているのであれば、かなりの知識を蓄えたものであると思わせられた。
暫く聞いていると、面倒な事に成りそうだったので、やめてもらうために行動することにした。
『じりりーんじりりーんコウサさん袋から水晶を取り出してください』
袋から聞こえる音は、まぎれもなく冬夜の声だった。
慌てて袋から水晶を探し取り出すと、冬夜の顔が空間に映し出され、『お、つながったー?上手く行ってれば良いけど』等と言い出したため、皆が呆気に取られてしまった。
『んんん、向こうのが見えるけど聴こえないな、悪いけど今から行く』そういって映像が消えると、冬夜本人が目の前に現れた。
ベルシーカーの面々は急いで戦闘態勢を整えたが、正直なところ警戒をしても無駄だと言うレベルの威圧が、無手のその者から発せられているように感じ、脂汗がだらだらと流れ始める。
呆気に取られていたほかの面々と、困った表情をしたコウサは平然としていた。
「何故皆はこの威圧の中で平然としている」
「おい冬夜、いきなり訪ねて来るのはぶしつけじゃないか」
コウサはあきれ顔に成りながらそう言うと、すまんすまん通信水晶で済ませようと思ったが調子悪いのか、何も聞こえなかったからさ。
そういって水晶を手に取って、詩歌アカレ子聴こえるーと語りかけると、問題ないみたいだよと返事が返ってきていたので、ただ単にこちらが静かなだけだったと理解した。
「あ、驚いて何も声が出なかっただけか、これは失礼じゃあかえ「一寸待って、今のは転移魔法?貴方何者」らせてくれないのか」
アリッサは、落ち着いたのか警戒しても無駄だと思い構えを解いた途端、威圧から解放され、そのまま質問を割り込ませた。
「まあ確かに転移魔法に近いかもしれないな、次元移動って手段だけど」
「次元移動なにそれ、そもそもこの空間は世界とは隔離されていたはず」
「そうそう、世界とは隔離されているってことは次元が違うってことなんだが、本来存在しない次元を作って存在しているこの空間は、同じ次元に行けば世界が狭いのですぐ入れるわけだ」
「それは有り得ない、何をもって定義しているのかがそもそも不明だわ」
「まあそこは、自分でたどり着いてちょーだいってね」
そこで話を終わらせて、まあ何か用があればそこの水晶に魔力込めて念じれば通じるから、あと交易とかはほんとに待ってほしい、準備が整うどころかまだ里自体が安定してないから来られても困るだけなんで、と一方的に言い残して帰っていった。
「ま、まあ判ってくれたと思う皆も」
「ありゃとんでもないな、確かに先ほどの冗談みたいな話も信じられる」
「あの人?魔力とは違う何かを使っていた、意味が分からないわ」
「確かに触らぬ神に祟りなしというやつですな」
「ありゃ一体何もんなんで」
「私は、それについて語る権限を持っていない。語れないよう制約が掛かっている」
『そうそう、俺はしがない料理人ってことでよろしく頼む』
水晶から戻った冬夜がそう語ったのが聞こえてきた、詩歌とアカレ子がその妻と娘ですと言っていたが、どう考えても妻の方が幼く娘の方が年上に見えた。
全員が仕方なしに頭を縦に振ったところで水晶からの通信が途絶えた。
「何とかなったかな、まあ気の良い連中には思えたが、生産が追いつく前に来られてもどうしようもないしな、せめてあと一年は欲しいだろう」
「お父さん、あと半年ほどで何とかできますよ、この計画書の見てもらえれば」
そういってアカレ子が手渡してきた計画書を見ると、確かにすべてがこの通りに行けば、半年後で何とかなりそうではあった。
ただこれ、ありえないぐらいに私らハードスケジュール過ぎじゃないですかね。
特に私が、道を切り開きつつ整地作業などを最後の三日間ですべて済ませろとか、それまでの間はひたすら毛刈り作業をしたり、さらにシープボアをあと二百頭程どこからか捕まえて浄化しろとか。
里の皆の労働量は今まで通りだが専門化させてやるとか、こちらはそこまでではないが確実に私は過労に成るんじゃないだろうか。
「これは、何というか一番悲惨なの私じゃないかねアカレ子や」
「そうでもないです、お母さんも同じようなものです」
「っえー、私もなのーどれどれ」
そういって計画書を奪い読み通していくうちにだんだんと顔が青ざめていく、真っ先に口を開いて言った言葉がこれだ。
「衣料品店じゃなくて、小物屋にするのはどうかなぁ。それなら小さい子もできるからもうちょっと何とか、それに小さい子のお小遣いにもなるから」
衣料品店だと、詩歌の負担が有り得ないレベルに成ってしまう。
何せ、計画書の内容を見る限り、かなりの量の発酵食品を手掛け半年では間に合わない分は腐神の力をもって補って最低ラインを整えると書いてあり、醗酵のいかんによってどれだけの労力に成るかが未知数な部類なため、下手をすると冬夜よりも地獄を見る内容であった。
予定されている店舗は、宿屋兼食事処、乾物屋発(酵食品も扱う)、衣料品店(素材も扱う)、後は木材店だ、店舗に努める予定者は既に接客方法と算術などは教えてある。
これを衣料品店から小物屋にし、皆慣れたのか色々と出来つつある陶器製品も並べてはと言い出した。
陶器製品を作るための粘土に関しては、里から大分離れるが山の方にいい鉱脈が見つかり、粘土と金属が取れるようになったので、そちらの素材を使って生産されている。
今ではなんと、自分たちで鉄製品が作れるようにまで成って居た、もともと斧を作れる者は居たのだが、かなりの高齢で後継者が居なくて困っていたが今回の部門制のおかげで、後継者も見つかり手入れや製造を行える鍛冶屋が出来上がっている。
音がうるさいのと煙も惨いので里の外周部に設置されてはいるが、当の本人たちは専用の工房が有る事に満足し、日々邁進しておりついに先日のこぎりを完成させていた。
他の者たちは、工業、教育、牧畜、建築、農産、林業、医療、保育に別れた。
保育部門については、最初に子供たちを面倒見ていた母親が、新たに母親に成るものが困らないように補助し、本来の仕事に戻るか保育部門に参加するかを選ばせる方式にした。
保育部門に参加する場合は、保育部門の人出が余る場合、後期参加組の古株から順に育成部門に回り、本来の仕事の方のやり方を育ってきた子供たちに教える方式をとることとした。
教育部門は、研究部門こちらは各部門の新たな技術の研究と、育成部門、読み書き算術と各部門の基礎部分を教える部門に別れる。
研究部門は、現在の技術の発展効率化を目指し実験するところで、今の所建築部門にガズとヨダ、農業林業に森霊達の一部が所属するのみと成って居る。
育成部門は、レグアが講師に成り里に来た頃にじゃれていた子供たちの一部がこちらの所属となっている。
防衛などと言った部分はひとまずは考えず、詩歌が連れてきた親虎とコンダくんとイシアが任せると言うので任せておいた、あれらに敵わない者が来た時点で里ではどうしようもないからそれでいいだろう。
アカレ子は全体の補助と指導側に回るらしく、まずは里全体を夜暗すぎて不用心だという事から、家の中に居れば影響を受けない街灯を里に設置する事から始めるらしい。
夜遅くまで作業をした挙句、戻ろうとして暗い中で他の人とぶつかる問題が発生しているとの事でまずはそこから解決するようだ。
建物自体は既に計画された板との事で、どこにグレコや各部門の代表と相談し配置するかが決まっており着工が始まっているとの事だった。
「建物自体は一月から二月ほどで完成する模様ですよ」
そう、アカレ子はついに思念会話から普通に喋れるようになっていた。
なんでも、生誕時は体の構築が不完全で、内臓器官の一部に不調があり、発声に影響が出るため控えていたらしく、成長した今の姿に成ったあたりから喋りはじめた、最初の頃は、慣れていないらしくすぐに声をからせていたが今ではそういったこともなく普通に喋っている。
「「なら仕方ない、デスマーチに成りそうですがやりますか」」
「デスマーチが分かりませんが頑張ってください」
とりあえず決めるだけ決まったので就寝して、開通する前あたりにでもコウサに連絡することにした。
「そういえばあそこなんか凄かったけど何処だったんだ」
「あそこはあの一帯の領主の館の会議室ですね」
「へーってことは、一番いい所に居たコウサが領主なのか…って領主だったのかアレ」
「ある意味いい結果につながったのでは」
「そーだねーコウサちゃんこっちをかなり気に入ってたし、友好的に行けそうじゃない」
「ですね、確実に開通すると同時に本人がやってきますよ。調味料欲しさに」
「確かにそうだな、あの場に商人みたいなのも居たし、商品は大量に用意した方がよさそうだな」
「後は向こうの街で、素材の買取などをしてもらい金銭を入手しておきませんと」
「あ~お釣り銭の問題もあるか、じゃあどうしよう。冬夜がささっと適当に冒険者にでもなって素材売りで一稼ぎして来たら」
「まあ、コウサの所になら直で飛べるからな、了解を得て飛んで通行証貰ってから、魔物の素材もっていってくるかね、幸い地龍の材料はあるしあれで幾らに成るかわからないけど」
後日、それが元で大問題となるのだが、それに気づいていない冬夜達であった。
地龍は忘れられたわけではないのです。
冬夜の空間倉庫の中に入りっぱなしではありますが。




