04_Wired
それは帰郷してからクリアになった記憶を辿り、彼女と行った神社を訪ねて路地を歩き回っていたときのこと。
私の名を呼ぶ、聞き覚えのある声。
驚きと共に振り向いた目に飛び込んできたのは、路地の向こうで息を弾ませ、目を潤ませた彼女の姿。
「彩乃、ちゃん……?」
驚く間もなく、飛び込むように駆け寄ってきた彩乃が私の手を取った。
「やっと、やっとここまで戻ってこられた」
少し窶れた涙目の彼女。最後に別れたときに似た表情に狼狽する。
恋人同士ならここで抱き締めたりなどするのだろうが、生憎そんな関係性ではない。握られた手の温もりにどきまぎしながら、私は何とか口を開く。
「ど、どっか入って話そうか……?」
言われて彼女ははっと手を放す。
その顔には、照れとは違う驚愕の表情が浮かんでいた。
異性慣れした気の利く者なら、二人きりでの話に向いた雰囲気の良い喫茶店なんかを知っているのだろうが、残念ながら当時の私はそんな場所のストックを持ち合わせていなかった。
それに。
「ここがいい。ここで話そ」
彩乃が率先して足を向けたのは、いつものゲームセンター……の裏手にある小さな神社だった。
「こんなところにあったんだ、神社」
「うん」
彼女は小さく頷き、鳥居の先を見つめる。視線の先はゲームセンターの裏手。古い空調の室外機が低く唸りをあげている。
「まっすぐ先がいつもの席なんだ」
「ええと、頭がスキッとするんだっけ。境内……鳥居の中じゃなくても?」
「どこでもじゃないけどここはそう。中ほどじゃないけどね」
小動物のような黒目がちの瞳が、室外機からこちらに移った。
「ぼくの言うこと、おかしいと思う?」
睨むようなきつい目つき。少し心細げだが、先程までの儚く弱々しい雰囲気は失せている。
私は首を横に振った。
『おかしなこと』は自分の身にも起こったことなのだから。
「それよりあの日の別れ際、様子がおかしかっただろ? その後、全然連絡もなくて」
「ごめん……あの日はなんか、頭のふわふわがどんどんひどくなってってさ。途中から、動いてるのも喋ってるのも自分じゃないみたいで……ちゃんとぼくがぼくだ、って思えたの、ついさっきだったんだ」
先程の驚愕の表情の理由はそれだったのか、と私は思う。
意識がはっきりしたら異性の知り合いと手を握っている状況は、確かに驚く。不可抗力とはいえ、乱暴に振り解かれたりビンタを貰わなかっただけでもマシだったかも知れない。
「……今までもそういうことあった?」
「初めてだと……思うけど……」
そう言って彼女は小さな鳥居を見上げる。
「ぼく、いろんなこと忘れてるんだ。子供の頃のことなんかは全然覚えてない。ふつうの物忘れもたくさん。キオクソーシツとか、覚えてることをだんだん忘れてく病気はあるみたいなんだけど、それとは違うみたいで」
「でも神社や近くにいるとよくなる?」
「変だよね。信じられないっしょ」
「……いいや、信じるよ」
私がゆっくりかぶりを振ると、彩乃は先程とは違うニュアンスの驚きの表情を浮かべる。
理由を説いたげな視線に応えて、私はここ数か月、彩乃の存在を忘れていたこと、故郷の神社でその記憶を取り戻したことを手短に語った。
「それは確かに、似た感じかも」
話を聞いて彼女が俯く。何か考えるように、人差し指で頬をゆっくり叩きながら。
「……ぼくだけじゃないんだ」
ほとんど息だけの呟きが私の耳を掠めた。
そしてすぐに顔を上げ。
「ぼくはね、家族に話したんだ。んで、病院とかにあっちこっち連れてかれた。だけど検査とかしてもなーんもナシ。お金ばっかかかっちゃってさ……」
「え、もしかして、お金の使い道って……」
思い出したのは、彩乃が自身の私物をオークションで売って欲しいと頼んできたときのこと。あのときは理由を訊ねてもはぐらかされてしまった。
しかし彩乃は首を振って笑う。
「違う違う。それに最近はもう行ってないよ」
「じゃあ……」
「そーだな、もう言っちゃっても良いのかな……結構巻き込んじゃってるっぽいし」
睫毛の長い大きな眼を一瞬伏せて、彼女はくるりとこちらを向いた。
「ぼく、タンテーを雇おうと思ってたんだ」
「探偵? 密室殺人とか解決する系の?」
「そういうんじゃなくて、迷い猫探したり不倫の調査したりする系」
「結構俗っぽい系だ」
「密室殺人の方は縁がないもん」
「あったら驚くよ」
「でしょ。勿論そんなんじゃないよ。探してほしい人がいるんだ」
「探し人?」
そう、と小さく頷いて。
「ぼくの双子のお姉ちゃん。行方不明なんだ」
「双子……」
「一応ちっちゃい頃はそっくりだったみたい。まあちっちゃい頃の写真しかないから今は分かんないけど……どっちみちぼくはすぐ忘れちゃうし、今は思い出せないや」
敢えてなのか、明日の天気かのように軽く話す彼女の横で、ざわざわと胸の奥を見えない風が撫ぜていく。
彼女を忘れていた間、代わりのように浮かび上がってきた記憶。
彩乃の年は十九。私は彼女の一つ上。
そして名前。
彼女の代わりに浮かんできた、違う彼女の名前。
「滝沢朱音」
私が口にした名前を耳にした瞬間、彩乃の動きが止まる。
驚きに見開かれ、いつもよりきつく睨むような眼が私を射抜く。
「なんで?」
無数の疑問が詰め込まれたその一言は、少し震えていた。
嫌な動悸を抑えつつ、私はポケットの財布に入れていた紙片を取り出し彼女に見せる。
「最後の日に君が渡してくれたんだ。覚えてないかも知れないけど」
彩乃は無言で紙片を見つめた。
「これ、私が子供の頃に使ってたノートの切れ端なんだよ。実家に戻ったとき偶然、本体を見つけてね。切り口までぴったりだった」
「……」
「故郷から持ち出したことは無いし、見せた相手も限られてる」
切れ端を見つめる彩乃の瞼がゆっくりと動く。
どこにでもありそうな紙片。ポケットの奥にしまって、クリーニングに出すときなんかにポイと捨ててしまう程度の軽さの切れ端。
だけどこれは、私か、私の縁者しか持ち得ない物品だ。
私か辻本か朱音か有香里か、その四人に渡されたか、偶然にでも入り込むくらいの近い関係の。
息の詰まるような僅かな間。
それから、彼女は小さな声で。
「これのこと、ぼくは知らない……知ってるけど、また忘れてただけかも、だけど」
困惑の混じる震えた声音。
「それより、朱音……お姉ちゃんのこと知ってるの?」
私は思わず止めていた息を吐いた。
「ずっと昔、何年か、子供の頃に遊んでたことがある。顔とかはちょっと思い出せないんだけどね」
「そうなんだ? じゃあお姉ちゃんは、旅行とかで、近所に行ったことがあるってこと?」
「聞いたことはない? というか、覚えてない?」
「ない。その頃のことほとんど覚えてないのもあるけど、ぼく、むかしは結構な病弱少女でさ、入院とかしてたから」
「そうか……」
少しずつ、パズルのピースが埋まっていく。
私たちの出会いは病院。私たちの町へ朱音が越してきた理由は、空気が良いから。
朱音と有香里はあの頃、彩乃の見舞いに来ていて、朱音の一家はのちに彩乃の体調を慮って移り住んできたのだろう。私が故郷について語ったことも、この町を選んだ理由の一つになった可能性がある。自然豊かな町というだけなら他に幾らでもあるのだから。
もしかしたら当時、私は朱音の『病弱な双子の妹』について聞いたかも知れないが、彩乃が姉から聞いただろう『一緒に遊んだ男の子たち』のことを覚えていないように記憶から零れているに違いない。
(有香里ちゃんの方の引っ越し理由は分からないけど、そっちも私の話した内容が噛んでいたりするのだろうか?)
思い出せないが、こちらはそもそも聞いていない可能性もある。
少ししゅんとしている彼女に、私は訊ねた。
「朱音ちゃんのことってどこまで覚えてるの?」
「うん? 一緒に遊んだり、仲良かった感覚はあるからさ。きっとみんなで遊んだ時のこととか、話してくれてた筈だよ」
「私たちのことも?」
「会ったことはないだろうけどね」
彩乃が肩を竦め、私は苦笑する。
それから意を決して。
「実は私にも、彩乃ちゃんと同じことが起こってるっぽい」
「ぼくと?」
「さっき彩乃ちゃんのこと忘れてたって言っただろ? それとは別に、子供の頃のことで思い出せないことがあるんだ。小学校から中学に掛けてのこと、一部なんだけど。朱音ちゃんたちの顔もそう」
「……」
「しかも私だけじゃなくて、同郷の友人もそうなんだ。しかも忘れてたってことまで忘れててさ」
彼女は私の言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。
「ぼくの方は、お父さんもお母さんも、お姉ちゃんのことはあんまし話さないから……でも、フキンシンかも知んないけどちょっとだけ心強いよ」
「そう……? 原因も分からないまんまだけど」
「でも、ほら、三人寄ればモモンガどん、みたいなのあるっしょ?」
「まだ二人だよ?」
「友人さん?も含めたら三人以上になる、でしょ?」
「まあ、確かに」
私はアパートで午後まで寝ているか気まぐれドライブでかっ飛ばしているだろう悪友のことを思い出す。
彩乃の方は興味津々の表情で私を見上げた。
「ね、今すぐ会える? 会いに行く?」
「会えるかどうかは五分五分かな……それより」
ようやくの手掛かりに早く話を進めたい、という態度も露わな彼女を引き止め、私は真剣な顔を向けた。
まだ、伝えなければならないことがある。
疑問符を浮かべて向き直った彩乃に、私は言う。
「滝沢朱音……彼女は中学の頃、亡くなっている」
心を鬼にして口にした言葉。
少女は大きな眼を更に丸くして、それからきっぱりと。
「そんな筈ないよ」
「彩乃ちゃん……」
その気持ちは分かる、と簡単には言えない。
私にとっての朱音は、つい最近、子供の頃に遊んでいたのを思い出しただけの、幼馴染というのも烏滸がましい間柄。しかし彼女にとっては、おぼろげな記憶を頼りに長い間探していた双子の姉なのだ。
「……本当なんだ。葬式もした。私は覚えてなくて周りに聞いただけではあるけど」
「じゃあ何かの勘違いだよ」
きっぱりと否定され、私はたじろぐ。
確かに、二人の失踪と朱音の葬儀については全てが伝聞である。自分自身ですら未だ疑っているくらいなのだ。ただ、勘違いで済ませるには自分以外の証言者が多過ぎるだけで。
彩乃は続ける。
「お父さんもお母さんも、お姉ちゃんのことはあまり話してくれないけど、そういう風には言わなかった。お墓も、お仏壇だって無い。それにぼくはちゃんと役所に戸籍、見に行ったんだから」
「役所?」
「その……死んだらそういう風に書かれるんでしょ。そうじゃなかったよ。だから」
大きな眼が私を睨むように見つめ、ふっと伏せられる。
「……でも、お父さんとお母さんは違うかも」
「違うって?」
「お姉ちゃんのこと、全然話さないから。ぼくが訊いても、あんまし……だから、もう生きてないだろうって思ってると思う。だから七年経ったらそういう届けを出す、かも」
行方不明になった人は、そのまま七年経てば死んだことになると、小耳に挟んだことはある。
実際に使うことなんて無さそうな知識だと、今日までは思っていたが。
「確かに、中学のときに亡くなった……いや、いなくなったなら、もう七年くらいは経つ頃か」
「うん、たぶんそう。アルバムでも、そのくらいからお姉ちゃん写ってないから」
そこで彼女は顔を上げ、拳を握った。
「だからできればその前に、お姉ちゃんがどっかで生きてるって、証拠が欲しいんだ」
「……それで探偵」
「そういうこと」
そして跳ねるように鳥居を少し離れて、振り向いた顔には期待の表情だけが浮かんでいた。
「じゃ、さっきの話に戻ってさ、ご友人に会いに行こうよ」
「……え、何? カノジョ? お前の?」
「やっぱり忘れてるか……」
私と一緒の彩乃を見た辻本の第一声に、私は思わず嘆息する。
この日、幸いにも辻本は在宅だった。しかし男二人のアパートに女の子を一人連れていく訳にも行かず、古アパートから悪友を呼び出し、適当なファーストフード店に三人集まることとなった。
その後、二人で代わる代わる一時間ほど現状の説明を行うと、彼は唖然とした表情のまま、炭酸の抜けかけたメロンソーダを一気に呷った。
「なんていうか……マジ?」
「今のところマジだよ」
「はー、そんなんアリかよー」
同郷の悪友は大仰に溜息を吐く。
「朱音と、こっちの彩乃さんが双子のきょうだいで、朱音は行方不明で、その辺のことを俺らはみーんな忘れちまってる上に朱音は死んだことになってて?」
「そ。ちなみに葬式の記憶とかある?」
「ねーよ。そんな大事、あったらこないだ思い出したとき言ってるだろ」
「だよな。じゃあ二人の顔は?」
「残念ながら」
私たちのやりとりで、彩乃は明らかにほっとしたようだった。
戸籍を確認したとは言え、自分側の証言が増えるのはやはり心強いのだろう。何しろ掛かっているのは双子の姉の生死なのだから。
辻元はそんな彩乃の様子を横目でチラと見て。
「で、協力しろって?」
「話が早い」
「でなきゃわざわざ話しに来ないだろうが」
「いやいや一応我が身と実家周りに起きてる事件だからな。あと興味湧いたろ?」
「まあな。そんで、パーティーメンバーを一人増やして、この後何するかは決まってんの?」
彼の言葉で、私も彩乃に視線を遣った。
二人に見つめられ、彼女は戸惑うように照れたように両手でジュースのカップを抱え込み。
「とりあえずそっちの町?に行ってみたいかな。お姉ちゃんは子供の頃そっちにいたんだし、いなくなったのも、そこからだし」
そして目を伏せ、小さな声で。
「葬式だって、そこでやったんでしょ」
「そのことについては、私も調べたい」
私は私見を語る。
製材所の宮守が言うには、彼女たちの失踪は滝沢家が引っ越してきてから数か月の出来事だ。有香里の家の方は分からないが、私の入院時期を考えれば、やはりそれほど経ってはいないと思われる。交際範囲にもよるが、人間関係もまだそれほど濃くなかっただろう。それなら引っ越す前から一緒に遊んでいた私たちが一番繋がりが深かった筈だ。
だというのに、失踪も葬儀のことも覚えていない。
とても不自然に感じる。
きっと辻本も同じ気持ちなのだろう。
「俺もそこは知りたいかな。俺もお前も、ショックで忘れる的な繊細な性格してないし」
「異論を差し挟みたいとこだけど、今回は見逃してやるよ」
「おう、こっちもいろいろ見逃してるからチャラだな」
言い言葉に買い言葉の遣り取りを彩乃がニヤっと笑って見上げる。
「仲いいねえ」
「腐れ縁っていうんだよ、こういうのは」
「へえ? でも羨ましいよ? お姉ちゃんともこういう風に言い合える仲だったのかなって」
「そうだったかも知れないな」
「覚えてないけどな」
ややしんみりした暫しの沈黙の後、辻本が不意に考え込み。
「そういや有香里のことも調べたいよな。そっちは行方不明から先は分かんねーんだろ?」
「そう、だけど」
デリカシーに欠けた言い方に私は少し嗜めるように睨んだが、彼は全く意に介さない様子で。
「朱音が生きてるなら有香里だけ死んでるってことはないだろうし、海外に引っ越したっていう俺の記憶の方が正しいってことになる」
「ああ……そう言ってたな。今でもその記憶は確かなのか?」
「葬式とか言われたとき一瞬揺らいだけどな」
「でも、海外が本当なら、ぼくたちで調べるの難しいね。パスポートとか持ってないし、外国語も、ちょっと」
「まず引っ越し先も分からんしな」
辻本が大きく溜息を吐く。
「……どうしてそんなことになってんだろうな」
悪友の言葉に、私も真面目な顔になる。
「分からない。忘れてる部分が鍵なのかも知れないけど」
「俺たちについてはそうだな。……問題はうちの、町の人の方か」
「どういうことだ?」
「葬式の記憶だよ。やってないなら、その記憶どっから来たんだよ、っていう」
「確かにそうだね……」
彩乃も首を捻る。
私たちの記憶は、ただ忘れているだけだ。忘れたことそのものまで忘れているとしても、ただ思い出せないだけで『無かったこと』を『有ったこと』にしてはいない。だが、町の人々の記憶にはそれが起こっている。
記憶に関する『何か』は起こっているが、その種類か、程度が違うのだ。
私の背筋を一瞬、寒いものが過ぎていく。
何かが起こっていて、それは『自分たちを含めた数人』という範囲ではない。
(でも、それって何だ……?)
「あとアレだ、神社のことも調べとかないとな」
辻本の言葉に、私は思索の深みから呼び戻される。
「神社?」
聞き返してきょとんとする彩乃。私もどういうことだと彼を見遣る。
悪友は疑問符を浮かばせながらこちらの顔を眺め、眉間に皺を寄せた。
「神社に行くと頭がすっきりするやつ。あと、お前が実家近くの神社入っていろいろ思い出したってやつ。どっちも神社絡みだろが。結構重要情報じゃね? なに忘れてんだよ」
「あ……」
言われれば確かにそうだ。
何故、選択肢からすっぽ抜けていたのだろう。故郷の神社は祭神すら知らないが、一つのキーとなるのは間違いない筈なのに。
「じゃあ、そっちの町に行って調べる、ってことでいいのかな?」
「そうだな。予定とかどう? 大学の夏休み九月まであるから、そこまで急がなくても大丈夫だけど」
「うん、とりあえず……いろいろ準備いるかな」
「どれくらい?」
「一週間か二週間、でいいと思う」
「了解」
日取りが決まり、故郷の町への行き方や運賃について伝える。
私たちにとっては帰郷だが、彼女にとっては旅行の距離だ。
「その間に俺らもいろいろ調べとくか。帰ったらインターネット環境とかクソだろうしな」
「大学とかの図書館もあるしな。で、何について調べるんだ?」
何かを調べるときの資料を集め、アクセスするには都会は良いところだ。問題は何を調べるかが定まっていないと、情報の多さで迷子になってしまうということである。
辻本は肩を竦め、それはこれから考えると答えて笑う。
私は軽口と笑顔を返しながら、先程背筋に走った寒気について考えていた。
(記憶の問題は私たちだけの話じゃない。町一つ、いやもしかしたら、もっと広い範囲の……学生三人の手に負えるようなものなのか?)
当初、彩乃は探偵を雇うと言っていた。探偵であれば解決できるとは言えないけれど、自分たち『普通の学生』よりは有能な筈だ。
(分からないことが多すぎる。どうして記憶が消えたり飛んだりして、生きている筈の人間が死んだことになっていて……)
思いを廻らせても、考えはまとまらない。
ふつふつと湧いてきた疑問と弱気をよそに、再びの帰郷の日取りは、月を跨いだ九月の第一週と相成った。




