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アパートの古い畳の上、緑に透ける葉から零れる光の中で、私はどれだけの時間、寝転んでいただろう。
妙にだるい腕を動かし、ポケットに捻じ込んだ紙切れを取り出して広げる。
彩乃の意図は分からないが、別れ際に渡されたものだ。
どうしてすぐに、少なくとも帰宅してすぐ開いて中を見なかったのかが不思議でならない。
切符ほどの大きさの紙は、無造作に千切ったルーズリーフの端のようだった。内容は手紙ですらない。規則正しく並んだ罫線を無視した拙い文字で「つづく」と一言。他には、ルーズリーフの型番らしき無機質なフォントが並んでいるだけだ。
込められた意味には全く見当がつかない。
透かしても返してもそれ以上の情報は見つからなかった。
視線を何度、天井と紙切れと往復させただろうか。紙切れから目を離すと、どうしてか、手に持っているのに持っていることすら忘れてしまいそうになる。
一時間もした頃、私はようやく気合を入れて起き上がり、携帯電話のカメラでそのメモを撮影した。
現代のスマートフォンで撮ったものとは比べ物にならない小さく粗い画像だったが、メモは確かに電子機器のデータとして残される。
そのとき私はどうしても、その儚い紙切れのことを自分だけで記憶していられる自信がなかった。
別れ際の彼女の言葉、うまく聞き取れなかったけれど口の動きで、こう言った気がするのだ。
(「わすれないでね――」)
読唇術なんて習った覚えはなかったけれど。
カメラを操作した流れでメールボックスを開く。
普段は別れたあと、大体二時間以内にメールが来るのだが、新着には何もない。
こちらから送った帰宅確認のメールにも返信はない。
意味深な告白の意味を尋ねたい気持ちは山々だったが、送った本文には書いていない。返事があってから訊こうと考えていたのだ。
メモを財布に突っ込み、再び私は横になる。
次の日も、その次の日も、彼女からの連絡は無かった。
いつものゲームセンターにも彼女は姿を現さなかった。
馴染みの店員や常連にも聞いてみたが、誰も見ていないと言う。
もしかしたら何か事件に巻き込まれているのかも知れないと不安が募る。
しかし彼女の自宅はおろか携帯以外の連絡先も知らないことに気付いてぞっとした。
警察に行くことも考えたが『身勝手で自堕落な若者』の『ただの遊び仲間』の捜索願いなどまともに取り合ってくれるとは思えない。
大袈裟な。考え過ぎだ。突然のっぴきならない用事ができて、私以外の、家族やもっと親しい友人には話しているだろう。
そんな気持ちが出向く足にブレーキを掛けていた。
まるで病院に行って病気が見つかるまでは病気なんてないと考えるように。
「なあ、最近どーした?」
早朝にアパートの廊下で顔を合わせた辻本が訊ねる。
彩乃とあちこち行っていた頃とはまた違う付き合いの悪さに、状況の変化でも察したのだろう。
いや、何でも、と言葉を濁す私に、辻本は眠そうににやにやと笑って。
「あ? カノジョでもできたとか?」
「彼女……彩乃ちゃんとは、別にそういうんじゃ」
「アヤノちゃん? ほうほうアヤノちゃんね、今度紹介しろよ」
その言葉に違和感を覚えて私は首を傾げる。
「お前も会ったろ、こないだ。話とかはしなかったけどさ」
「はあ? お前が女連れなんてレアイベント、俺が忘れる訳ないじゃん?」
揶揄うように指を振って、悪友は私に背を向けた。
それはそうだ。辻本の言う通りだ。
だからこそ忘れている筈などないのに。
自室に飛び込んだ私はチラシの裏を束ねたメモ帳に、彩乃について覚えていることを書き出した。
歳は十九。背は私より低いが平均よりは高い。ゲームとお菓子が好きで、ときどき神社のことなんかに詳しい。今は一人暮らしで、家はいつものゲームセンターから一、二時間の距離だが、詳しい場所は分からない。お金が必要そうだったが、その使い道は不明。通っている学校も、私以外との交友関係も分からない。出身も家族構成も不明。
書き出した情報の半分に『分からない』『不明』の文字が躍る。
あちこち出掛けて、気安く話をしていたと思っていたのに、彼女自身のことは何も知ってはいなかった。
出会って一年どころか半年も経っていない一人暮らしの女の子の個人情報が手元にほとんど無いのは、当然と言えば当然だろう。むしろ、じんわりとショックを受けている自分に驚くほどだ。
(彩乃ちゃんにとって、私はそれほど重要な、何かあったとき絶対に連絡を入れなければならないポジションにいた訳ではなかった)
何度かそう思い込もうとして自分に言い聞かせてみた。
その度に、最後に手渡されたメモが引っ掛かる。
「つづく……」
ただ一言だけのメモ。口にしても何も起こらない、ありふれたごく普通の単語。
何か意味はある筈なのに、何も見いだせない。
変化も進展もないそんな日々が、どれだけ続いただろう。
ゲームセンターに見知った顔は現れず、携帯電話に望んでいた連絡は来ない。
そもそもゲームセンターに行っても『彼女』と対戦したときの記憶は曖昧になり始めていた。それは二人で行った公園や路地についてもそうだった。
辻本は幾度か『彼女』を紹介してほしいと絡んできたが、答えに窮したりのらりくらりと返事を先延ばしにしているうちに、顔を合わせても話題にすらあげなくなった。私が『彼女』を忘れていっているように『彼女に関する話題』そのものを忘れ去っていたのか。
彼のような忘却が遠からず自分にも起こるだろうとうっすらと感じていた。
渡されたメモも、メモの写真も、取り出して眺める頻度が減っていく。
私の中から急速に『彼女』が薄れていくのを感じた私は、コンビニで買った缶ビールを片手に地下道へ向かった。
ジョニーはいつも通りにいつもの場所で、弾くでもなくギターを抱えていた。
「どうした青二才」
彼が言い終える前に、私は息を弾ませながら。
「なあ前に、私に女ができたと言っただろ」
「そんなこともあったな。振られたか?」
「どうして……そう思う」
「様子が女がいるときと違ってきてるからさ。だが……いや、振られたのとも様子が違うな」
「違う……」
「おう。今のお前さんは、女ができる前に戻ってきてる。振られたなら、女がいたときに積んできたもんが出る筈だが、それが無い」
「……」
言葉を受け止め、視線を落とす。
きっとそれは、私が『彼女』について忘れかけていることに、関連があるに違いない。
私は『彼女』に振られた訳ではない。そもそも付き合っていないという話もあるが、少なくともあの日は、嫌になって別れたなどという雰囲気ではなかった筈だ。記憶は朧げになっているが、雰囲気だけはまだ思い出せる。
「……ジョニー」
「おう」
「私には、その……女がいた。それは間違いないか?」
「そんなもん俺に聞く話じゃねえ。お前さんとその女が一番よく知ってることだろ」
「客観的な視点が欲しいんだ」
「はあ?」
彼には珍しい、怪訝な表情を浮かべ、じろじろと私を見てから。
「お前さんの女にゃ会ってないが、お前さん自身も、付き合っているとかいないとかそういう話はしてたからな。詳しい関係までは知らんが、お前さんが意識する女が身近にいたことは間違いねえ。俺の目にはそう見えた」
自分の目以外からの保証を得て、私は大きく息を吐いた。
『彼女』はいた。
何故か自分は忘れかけ、辻本の記憶からはすっかり消え去ってしまった『彼女』。
「ジョニー、そのことを覚えといてくれないか?」
「別に忘れちまうようなもんでもねえが。本当にどうした?」
「心配ありがとう。でも今は、ちょっと分からないことが多くて……話せるようになったら話すかも」
「俺としちゃそれで構わねえけどな……仕方ねえから今日は相談料はマケといてやろう」
彼がそんなことを言うのは初めてだった。よほど私の様子がおかしかったのだろう。
しかし私はかぶりを振って、ぬるくなってきた缶ビールをジョニーに押し付けた。
ジョニーに相談をした後、『彼女』の記憶は薄れていくばかりだった。
下手をすれば相談したことすら忘れそうになるのを、普段行かない時間に行ったコンビニのレシートを見て繋ぎ止めるのがやっとという有様だ。
実は自分の方が記憶喪失になっていく病気にでもなっているのではと思った時もあったが、それにしては薄れていく記憶の種類や範囲が特定の関係に偏り過ぎている。仮にこれが症状だとするなら、辻本まで『彼女』について忘れているのはおかしい。記憶喪失を起こす伝染病なんて聞いたことがない。
そうだ、忘れていくのはいつでも『彼女』に関わることだ。過ごした日々もゲームセンターでの出来事も神社の蘊蓄も渡されたメモについても。
代わりに、その頃から不意に思い出す『名前』があった。
「たきざわあかね」
その名を口にすると、忘れかけている『彼女』とはまた違うざわめきが胸の中に巻き起こる。脳ではなく、喉と舌と唇が、いつか声に出して呼んだことがあると覚えているようだった。
漢字は分からない。
響き的には女性の名前だろう。
顔を思い出そうとすると、どうしてか、ひどく心細そうな、泣きそうな表情がイメージされる。輪郭自体は朧気で細部は描けないのに、そんな表情をしていることだけは分かるのだ。
(……女の子のことだけ忘れる病気にでも罹っているのか?)
にわかに自分の記憶というものに不安を覚える。
忘れかけている『彼女』と思い出し始めている『あかね』。
私が忘れたり思い出したりしているのは本当にこの二人だけなのだろうか。
思った瞬間、私は勢いをつけて起き上がった。
スニーカーをつっかけ、隣室の部屋のドアを叩く。
「なんだよー……」
明らかに寝ていただろう閉じかかった目とぼさぼさ髪の辻本に、私は、聞き覚えがないか、と『たきざわあかね』の名を出した。
まだ朝早いぞ、とぶつくさしていた辻本の動きが止まる。
眉間に皺を寄せ、しばし黙った後、彼は言った。
「……あー……俺らの実家の……ちっちゃい頃、一緒に遊んだ子だろ? 俺とお前と、あかねと、あと」
更に間を置いて考えてから。
「あとそう、ゆかり。四人で遊んだ、よな?」
言われて急に、私の頭の中にノイズ交じりの映像が溢れてくる。
緑なす山々、蝉時雨の降る雑木林、轍の残る畦道。
都会に出てからは映像の中でしか見ない、都会生まれ都会育ちの学友が何故か『懐かしい』と言うような田園風景……私の生まれ育った田舎の景色。
大通りを外れ、町から離れた製材所近くの『彼女』の家で、私たちは誕生日を祝った。
私と辻本とゆかりとあかねの四人で。
「いや、待て。ゆかりって……?」
幼い頃の記憶に混じって一緒に飛び出てきた新しい名前。
口走った私を、辻本は怪訝そうに見上げ。
「ゆかりだよ、仲本有香里。あかね……滝沢朱音と同じ学年一つ下の子。中学入ってすぐ海外行っちゃってさ、確か」
「そうだったっけかな……?」
「そう、そうだよ。あー、だんだん思い出してきた」
辻本はうんうんと勝手に頷きながら。
「お前、小四のとき入院したじゃん。そんで退院してから二人が来てさ。あれお前の紹介だったんじゃなかったっけ?」
すらすら語り出した悪友の言葉につられて、私の記憶も引きずり出されていく。
小学四年生の、確か夏休みに入る前のことだ。
私は外遊びの好きな子供らしく走って転び、運悪く頭を打ってしまった。
(頭は何かあったら怖いから)
母がそう心配して、町から少し離れた大きな病院に検査入院することになったのだ。
そこで出会ったのが『たきざわあかね』と『なかもとゆかり』という、一つ年下の女の子たちだった。
二人ともは入院患者だったのか、それとも片方が片方の見舞いに来ていたのか、その辺りはよく覚えていない。
しかし二人は私に会う前から仲良しで、いつも一緒にいた。彼女たちは中々の探検家で、よく院内のとんでもないところに隠れたり登ったりしてスタッフを慌てさせていたのが印象深い。
私が山の方の町に住んでいることを話すと、二人は興味津々で、近所の廃屋や神社、賑やかな祭の話を目を輝かせて聞いていた。あかねとゆかりが住んでいる街の方は、私の実家のあたりよりずっと都会で、緑と言えば街路樹と花壇と公園ばかり。神社や廃屋などは見たこともないし、祭なんて小さな子供用の御輿が出るだけと言う。
短い入院生活の終わりが近づく日、彼女たちは私のところに遊びに行って良いかと訊ね、私は特に断る理由もなく、いいよと言った。
その後、有言実行したのが、私と辻本が掘り起こした『四人で遊んだ』記憶ということになる。
「確か、あの子の誕生日のとき……みんなでプレゼント用意して、庭に隠して、さあどこでしょうって探したよな?」
細い糸を手繰るように、おぼろげな思い出を探り探り口に出す。
今度は辻本の方が私の思い出語りに触発されたのか、こめかみに指を当てて。
「あー……そうだ、したした。お前が用意したやつだけいつまで経っても見つかんなくてさ。だったよな?」
「そうそう。自分で隠したのに、自分でも見つけられなくて……」
「あれ結局、見つかったんだっけ?」
「……覚えてない」
私たちは言葉を切って顔を見合わせる。
そこそこ長い沈黙の後、先に口火を切ったのは辻本の方だ。
「あのさ」
「何?」
「もしかして俺たち、忘れてること、かなり多くね?」
「……子供の頃の記憶があやふやなのは、割と普通だろ」
「そうだけどさ、学区の外の子と遊ぶなんて珍しい部類の記憶じゃん? しかも女の子と」
「それは、まあ」
「あのさ、上手く言葉にできないんだけど」
彼は頭をくしゃくしゃと掻きながら。
「中学くらいの頃までの記憶と、その後と、思い出し方?が違う気がしてさ」
「違う?」
「うーん、中学の二年くらいからの記憶は、元々ぼんやりあって、関連の話とかしてたらそこそこ出て来るんだけど、その前のは元々何もないみたいで、さっきみたく思い出すのもビニール袋で邪魔されてるみたいな」
「……」
彼の言いたいことが、今の私は分かるような気がしている。
「……確かに、さっき言われるまで、子供の頃にあったこと全然覚えてないと言うか、思い出しもしなかったような」
「だろ? 普段何も思ってなくても何かの拍子に、テレビとか本とか見たときに、近所のこととか遊んだ遊びとか思い出すもんだろ? 大体の思い出はそうじゃん?」
私は眉間に皺を寄せ、辻本の言うことを試してみる。
中学の同級生と、行きつけだった潰れそうで潰れない雑貨店、学食でお気に入りのパン、癖のある話し方の教師……思い出そうと思えば、一つの記憶に関連付けて次々と姿を現す光景。
翻って、それより前の出来事はどうだろうか。
思い出せるものはある。母が作る好物のハンバーグ、昼休みに校舎の窓から飛ばした紙飛行機、校庭の池で泳いでいた巨大な鯉、つまらない授業、早く寝なさいと叱られながら噛り付いていたテレビ番組。
そこだけなら何ら不自然さはない。
ように思えた。
「辻本」
「なんだよ」
「お前、学校と家以外の……放課後とか登下校とか、外で遊んだ思い出、さっきの以外に思い出せる?」
「は? そんなの……」
反論しかけて黙り込む辻本。次第にその顔色が変わっていく。
「いやまさか、そんなこと」
「そのまさかが今の状況だろ」
「えー……マジかよ」
天井を仰ぎ大袈裟に溜息を吐いた。
「これ何? ドッキリ?」
「何のスキルもコネもない貧乏な一般大学生にドッキリ仕掛けるメリットって何だよ。あと子供の頃の一部の記憶だけどうにかする技術って何だよ」
「知らねーよ。だって意味分からんもん。アレだろ、病気でもないんだろ?」
「それも考えた。でも同じ症状のやつが二人出てるからな」
「感染る系の病気かよ。謎の実験室からうっかり漏れた未知のウイルスの仕業か?」
そこまで言って、辻本は先程より大きな溜息を吐く。
「無さそうだな」
「意見が一致して嬉しいよ」
「嬉しくねえよ。まあ、俺たちが知らないうちに偶然同時に頭打って偶然同じところの記憶がぶっ飛んで、の方がまだありそうだわ」
私は少し苦笑して、それから真面目な顔に戻した。
「それで実は、忘れてることはたぶんそれだけじゃない」
「はあ?」
「これ見てくれるか?」
言って、私は自分の携帯を出して辻本に見せた。
「なに? お前のプライベート開示されても嬉しいことないけど?」
「いいから見てくれって」
操作して、着信履歴を表示する。
辻本は若干引いた表情でそれを眺め。
「大学関係とバイト関係と実家と……あと、誰? 彩乃ちゃん? 女の子?」
「たぶん女の子。メールの履歴もあるし」
「見たくねえ」
「見せないよ」
軽いやり取りの後、辻本は気付いて眉間に皺を寄せた。
「たぶん女の子って何だよ」
「だから、それがさっき言った件だってこと」
小学校から中学にかけての一部の記憶とは別に、私が忘れていること。
忘れていることさえ忘れかけていたことだ。
「ええ、こっわ。何、お前そんなヤバい感じになってんの」
「それはこっちが知りたい。でも、他にもいろいろ忘れてることあるんじゃないかって考えるきっかけにはなっただろ。そっちにだってあるかも知れないんだからな」
「うわーやめろよ、ホラーじゃん」
言いながら辻本は自分の携帯の電話やメールの履歴をポチポチ確認し始める。
そして覚えのないやりとりが無いことを確認したのか、少し安堵した表情でこちらに向き直った。
「とりあえず残ってるもので怪しい感じのは無かった。けど、特に残るようなもんが無い場合は分からんな」
「会っただけとか話しただけとか、どこかに行っただけ、とか?」
「そ。気晴らしドライブ先とかいちいちメモってねーし。あとは時間経ってから分かるやつは今すぐは分かんないか」
「講義出たつもりが出てなくて年度末に単位取れてないとか、出かけた先で帰るの忘れかけたりしてないだろうな」
「リアルなホラーやめろよ」
軽口を叩き合い、しかし解決の糸口は見つからない。解決どころか原因も、状態が及んでいる範囲すらも不明なままだ。
気が付けば日は高くなり、私は午後の授業があることをギリギリ思い出して辻本の部屋を辞した。
大学へ行く道すがら、私はまだ考えていた。
忘れてしまっている部分の共通点を探るべく、思い出したばかりの『四人で遊んだ記憶』をなぞっていく。
そのうちにふと浮かんだ疑問点。
『あかね』と『ゆかり』、二人の少女は学区外の子だった。出会ったのも町の外の大きな病院だ。
しかし誕生日に遊び、庭にプレゼントを隠した彼女の家は、私たちの町にあった。
今では道筋も思い出せる。町の離れの製材所に向かう道沿い、個人でやっている小さな自動車整備工場の隣の白壁の家。
何故違う学区の子の家が私たちの町にあったのだろう。
どうやら私には、まだ忘れていることがあるようだった。




