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37、ビリー殺害の真相

 ダグラス・アシュバートンの確保によって、三年前のビリーの毒殺事件はあっさり解決を見た。

 サイラスが必死に黙秘した甲斐もなく、ダグラスが全てを自白したからだ。


 三年前、王都の法律事務所に勤めていたダグラスは、当時、フランク商会の会長夫人だったデイジーと不倫関係にあった。フランク商会は軍需物資を扱っていたため、戦時特需でなかなかに景気がよかった。デイジーに貢がせていい目を見ていたが、デイジーの夫が二人の仲に勘づいた。


 父親が医者だったダグラスは、薬物関係にも伝手(つて)があった。夫を始末したい、と言うデイジーのために砒素を入手し、少量ずつ盛って殺す計画を立てたが、ふと思う。


 ――これでデイジーの夫を殺せば、俺はデイジーと結婚することになる。


 デイジーの金は夫の金で、夫が死ねば遺産は入るが、デイジーにそれを殖やす能力はない。金は無限でないから、いずれ無くなるだろう。そうなった時、この女にどれほどの魅力があるのか、と――。


 ものすごく勝手な言い分過ぎて、デイジーに同情したくなるけれど、ダグラスはそれをきっかけに、デイジーと別れる算段を始めた。


 たまたま、勤務する事務所が財産を管理している「ジェームズ・アシュバートン少尉」の戦死を知る。


『もしかして、ダグラス、お前の親戚か?』


 事務所の上役に問われ、それが父・サイラスの従兄の息子だと思い出す。サイラスが主治医を務める、リンドホルム伯爵の嫡子・ビリーの次の継承権者だと。


 つまり、父であるサイラス・アシュバートンの継承順位が繰り上がるのだと気づき、一気に計画が出来上がったという。


 ビリーが死ねば、継承権は父サイラスに移る。

 ――だが、従兄への継承は歓迎されない。ビリーの姉・エルスペス(つまりわたし)がいる以上、そちらに代襲相続を申し出るのが普通だ。

 しかし、ダグラスはその時考えた。


 わたしと結婚すれば、リンドホルム城は実質的に手に入る――。


『自分より十も若く、しかもお高く止まった美少女だった。あれを手に入れ、さらにリンドホルム城のオマケが付くなら、危険を冒す価値もある。当主のマックス・アシュバートンが出征して留守にしている今がチャンスだと思った』


 警察の尋問に、そんな風に応えたと聞いて、わたしはゾッとした。


 ダグラスはデイジーとの仲を清算しようとしたがデイジーが承知せず、二人の関係が周囲に知られ、ダグラスは事務所をクビになり、リンドホルムに戻る。父の戦死が伝えられたのは、ちょうどその頃。混乱するリンドホルムで、ダグラスはジェームズ・アシュバートンの戦死が知らされないよう手を回し、父親やアーチャーを抱き込む。――その過程で、アーチャーがわたしに抱いていた歪んだ恋情に気づいて、脅迫の材料にしたという。


『数年ぶりに会ったエルシーは綺麗になっていて、しかも猫のようにツンケンして、ますます手に入れたいと思わせた。ビリーさえ死ねば上手く行くと思い、計画を練った。聖誕節の休暇でビリーが帰省中の時に、親父が夕食に招待された夜を狙い、アーチャーに砒素を入れさせた。砒素はデイジーに頼まれて入手していたものを流用した』


 ダグラスの狙い通り、ビリーは死亡し、死亡診断書は主治医のサイラスが書き、何食わぬ顔ですぐに埋葬する。そこまでは上手く行ったのに――。


『エルシーへの代襲相続が却下されるなんて、思っていなかった。どうやら、法務省の方に誰かが圧力をかけているらしいが、そこまではわからない。親父が継ぐことになって、エルシーとエルシーの婆さんは、俺との結婚を断固拒否して邸を出ると言い張る。金がなければ思い留まるかと、できる限り財産を奪い取ってやったのに、あの婆さん、意地になって王都に出ていきやがった……!』 


 結局、わたしを手に入れるという目的は果たせず、それでも、時々手紙を送り、わたしが戻ってこないかと、あれこれ画策していたという。


 一つには、サイラスでは領地の経営が上手く行かないこと。


 結果として、先々代当主夫人である祖母と、先代の令嬢であるわたしを追い出した形になり、父に忠誠を尽くしていた代官たちに、サイラスはそっぽを向かれてしまい、収益が大幅に減り、領地は赤字に転落した。わたしを領地に迎え入れ、ダグラスと結婚させれば、代官や領民の印象もよくなるはずと考えたらしい。


 そしてもう一つはアーチャーとの軋轢。


 アーチャーがビリー殺しに協力したのは、脅迫されたこともあるが、わたしを嫁に行かせたくないからだ。代襲相続が叶わず、わたしと祖母が城を出てしまえば、アーチャーにとっては何のうまみもない。サイラスが相続したことで、アーチャーの疑心暗鬼は深くなる。


 そこへ降って湧いた、わたしがアルバート王子の愛人になったという、王都の噂。

 マックスの献身によって命を拾った王子は、わたしの代襲相続が却下されたのに驚き、わたしの権利を取り戻そうとしている。


『エルシーの代襲相続が認められてれば、今頃、俺はエルシーと結婚できていたはずなんだ。あの婆さんは文句を言っただろうが、十六歳の小娘が領地経営なんてできっこない、近い親戚で法律知識のある俺が、一番、適役だったのに……!』

 

 アルバート殿下がビリーの死の真相に気づけば身の破滅だ。殿下がわたしへの興味を失えば、ビリーの死を詮索しなくなるはず、と思い、噂通りの派手で蓮っ葉な女が好みなら、そういう女を近づければいいと考え、昔の恋人であるデイジーと連絡を取る。しかも、デイジーの昔の婚約者の弟が、アルバート王子の側近に出世ていると聞き、デイジーをけしかけ、王子を誘惑させた――。


 この尋問に同席していたジョナサン・カーティス大尉は、あまりの浅はかさに眩暈がしたそうだ。後で報告を聞いた殿下は、怒り狂ってブランデーの入ったグラスを叩き割ったらしい。


 そんなダグラスの無駄な努力にもかかわらず、殿下が流したビリーの死を再調査する、という記事に釣られたアーチャーが墓を暴き、ビリーの毒殺が発覚した。ダグラスは数日、王都をうろついていたが金が尽きてデイジーを頼り、カーティス大尉らにより、居場所を特定されたのだった。 


 ダグラスが逮捕され、ビリー殺しを自白したせいで、サイラス父子の相続は無効とされた。リンドホルム伯爵の継承はビリーの死の段階まで一旦、差し戻され、継承のやり直しが行われる。


 三年前、なぜ、わたしへの代襲相続が却下されたのか、それは謎のままだけれど、おそらく今度の申請では認められるだろう、というのが、新聞各紙の予想だった。


 わたしの父、マックス・アシュバートンがシャルローで戦死し、それはアルバート王子を身を挺して庇ったせいだというのは、アルバート王子を始め、何人もの証言がある。もし、それでも代襲相続が却下されたとすれば、戦死者の遺族会が黙ってはいまい。――ことは王家への忠誠と関わる問題だと、相続法に詳しい議員の一人が、匿名でコメントを寄せていた。


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