第005話 王都とネコ
首尾よく城門を抜けた瞬間、クロたちの足がピタリと止まった。
「にゃにゃ……なんにゃこれ」
目の前に広がっていたのは、これまで見たこともないほどの人混みだった。大通りには露店がずらりと並び、色とりどりの旗がはためいている。
「にゃにゃ、祭りかなんかにゃ?」
「ほんとにゃ……すげー人がいるにゃ」
ミケが箱を抱えたまま、目をまん丸にしている。
「猫に、犬に……人もいるにゃ」
「あ、あそこ見るにゃ! 赤い顔してツノが有る巨人がいるにゃ!」
クロが指差した先には、身の丈二メートルはあろうかという、真っ赤な肌に立派なツノを生やした鬼族の男が、涼しい顔で大樽を軽々と担いで歩いていた。すれ違う人々も特に気にする様子はない。
「にゃ……にゃんか、猫だけの村で育つとこの光景は衝撃にゃ……」
タマも珍しく、しばし呆然としていた。
考えてみれば当然だった。彼らのギルドがあったのは猫獣人だけの小さな村。街に出るのはこれが初めての者ばかりだったのだ。
「あの、露店から良い匂いがするにゃ……」
シロの鼻がヒクヒクと動く。焼き魚の匂いだった。
「にゃ!? 待つにゃシロ!」
「ミケも気になるにゃ……」
「箱ごと突撃するのはやめるにゃ!」
案の定、四匹の視線が同じ方向――魚の屋台に吸い寄せられていく。
タマが慌てて全員の首根っこ(正確には尻尾)を掴んだ。
「落ち着くにゃ! まずは情報収集にゃ! ワンチュールの手がかりを探すのが先にゃ!」
「わかってるにゃ……でも匂いが……」
「わかってないにゃ!!」
雑踏の中、猫たちの小さな攻防戦が繰り広げられる。道行く人々は微笑ましそうにその光景を眺めながら、足早に通り過ぎていった。
こうして冒険王を目指す一行は、初めての大都会で、早くも試練(主に食欲との戦い)に直面するのだった。




