第004話 チートアイテム
「ふっふっふ……こんなこともあろうかと、とっておきのアイテムが有るにゃ! ジャジャーン!」
クロが懐から取り出したのは、昼に食べた鳥の手羽元の骨だった。
その瞬間、ポチ二等兵の耳がピクンと立った。
「……それは」
「骨にゃ! しゃぶると美味いにゃ」
隊長の目つきも変わっていた。忠誠と規律で固められていたはずの瞳の奥に、抑えきれない何かが揺らめいている。
クロはニヤリと口を歪めると、骨を高々と掲げた。
「さぁて――」
「ま、まさか」
「取ってこーい!!!」
叫びながら、骨をあらぬ方向――城壁の外、木々の茂る方角へと思い切り放り投げた。
一瞬の静寂。
「「「「うおおおおおおおおん!!!」」」」
門番も、隊長も、詰所から出てきた他の犬獣人たちも、全員が弾かれたように骨めがけて猛ダッシュした。しっぽがちぎれんばかりに揺れている。
「た、隊長!? 職務は!?」
「うるさい今はそれどころじゃない!」
「ご主人様への忠誠は!?」
「骨が先だ!!!」
一糸乱れぬ規律を誇っていたはずの犬獣人部隊が、一匹の猫が投げた骨一本で完全崩壊した。
城門前の通行検問所には、取り残された猫が4匹。
「……にゃんか、ちょろかったにゃ」
騒ぎの張本人のクロは悪びれもせず呟く。
「規律で固めても、本能には勝てないんにゃな……」
タマが感慨深げに言った。
「にゃ、それってうちらのことでもあるにゃ?」
ミケが箱から顔を出し呆れたように呟く。
「「「言うにゃ」」」
こうして猫たちは、通行証なしで、堂々と東城門を通過した。
「あ! 鳥の骨は鋭く割れるから、あげちゃダメにゃ」
シロはいつもの眠そうな顔で、ポツリと呟く……
だが、この一件は後日、犬獣人部隊の間で「骨事件」として語り継がれ、ポチ二等兵は始末書を書かされることになる。彼は最後まで、なぜ自分があの時骨を追いかけたのか、うまく説明できなかったという。




