第016話 犬の門番再び
「にゃあああ、やったにゃ!」とタグを掲げて浮かれていた、その時だった。
「待てええぇぇぇい!!!」
ギルドの正面扉が勢いよく開け放たれ、息を切らした犬獣人部隊がなだれ込んできた。先頭にいたのは、あの隊長と、始末書を書かされたばかりのポチ二等兵だった。
「見つけたぞ! お前たちだ!」
隊長がビシッと四匹を指差す。ギルド内の冒険者たちが何事かとざわめいた。
「にゃ!? な、なんにゃ急に!」
「とぼけるな! 貴様ら、通行証を持たずに東城門を突破した不審者だろう!」
「あっ」
タマたちの顔が一斉に固まった。骨事件の後、あまりにもすんなり街に入れたので、すっかり忘れていた。
「あの件はまだ終わってなかったにゃ……」
「にゃんかもう遠い過去のことみたいに感じてたにゃ……」
「不正な手段で入市した者は、正式に取り調べを――」
隊長がそこまで言いかけたところで、受付嬢がすっと一歩前に出た。
「あの、失礼します」
「な、なんだ」
「その方々でしたら、たった今、当ギルドで正式な冒険者登録を完了しています」
受付嬢はにこやかに、四枚のFランクカードを指し示した。
「冒険者タグをお持ちの方は、王都全域において通行の自由が保証されています。城門の通過履歴についても、登録と同時に正規のものとして扱われますので……今回の件は、問題ないかと思います」
隊長の勢いが、ピタリと止まった。
「……は?」
「規則ですので」
さっき自分たちが猫たちに向けて言い放った言葉を、そっくりそのまま返された形だった。
「にゃ、にゃ! 俺たち、もう不審者じゃないにゃ! 正式な冒険者にゃ!」
クロがタグを高々と掲げ、これ見よがしに見せつける。ずぶ濡れの体からまだ少し水が滴っていたが、本人はまるで気にしていなかった。
「ぐ……ぐぬぬ……」
隊長は悔しそうに歯を食いしばった。骨一本で部隊が総崩れになった一件の後始末に来て、さらに規則を盾に取られては、返す言葉がなかった。
ポチ二等兵が、隊長にそっと耳打ちする。
「隊長……これ、我々の完敗では」
「わかっている……わかっているんだ、ポチ……」
隊長は肩を落とし、深く長いため息をついた。
「……次会う時までに、通行証はちゃんと取れよ」
「今回はもう取ったから大丈夫にゃ!」
「そういう問題じゃない!」
犬獣人部隊は、それ以上何も言えず、すごすごとギルドを後にした。去り際、ポチ二等兵だけが一瞬振り返り、クロに向かって小さく呟いた。
「……次は骨には釣られないからな」
「にゃ、それはどうかにゃ?」
クロがニヤリと笑うと、ポチの尻尾がわずかに揺れた。反論の言葉は、出てこなかった。
こうして、冒険王を目指す一行は、正式な冒険者として、城門を堂々と通れる猫として、次なる目的地、変わり者の学者のもとへと向かうのだった。




