第015話 冒険者講習、結果発表
「にゃああああ!! 的が燃えてるにゃ!!」
ようやく状況を理解したミケが、木箱を放り出して駆け出した。だが向かった先は消火ではなく、なぜか近くに置いてあった水桶だった。
「水にゃ、水持ってくるにゃ!」
「ミケ、その桶――」
タマが止める間もなく、ミケは桶を両手で抱え上げ――勢いよく、燃える的ではなく、虫を追いかけて戻ってきたクロに向かって水をぶちまけた。
「うにゃあああっ!?」
「あ」
盛大な水しぶきと共に、クロがずぶ濡れになって地面に転がる。的の炎は、依然として元気に燃え続けていた。
「にゃにゃにゃ、黒焦げになってると思ったにゃ!」
「元から黒いにゃ、間違うにゃ!!」
ずぶ濡れのクロが叫ぶ。
ガロウが呆れた様子で水魔法を詠唱すると、慣れた手つきで的に水球をぶつける。ジュッという音と共に、炎はあっさりと鎮火した。
「「「「おお〜〜〜、すげーにゃ! 魔法使いにゃ!」」」」
シロが四苦八苦した水魔法を、ガロウはあっさり発動し消化すると、猫達の拍手喝采を受ける。
「……お前らを見ていると、俺が指導した中で一番、色んな意味で規格外だ」
「にゃ〜〜、そんにゃ褒められるほどでも〜」
「褒めてない」
ガロウは深いため息をつくと、評価表にまとめて何かを書き込み、四匹に向き直った。
「戦闘技術は正直、お世辞にも高いとは言えない。魔法も基礎レベルも怪しい。最もこの程度の冒険者志望は珍しくも無い、しかし――」
そこで一旦言葉を切り、ガロウは意外にも真面目な顔で続けた。
「お前らには、変な度胸と、諦めない粘り強さがある。的を燃やして、仲間に水をぶっかけて、それでも笑って前に進める奴は、そう多くない」
「にゃ……」
タマたちが顔を見合わせる。
「登録は認めよう。ただし――」
ガロウがニヤリと笑った。
「Fランクからだ。危険な依頼は受けさせられん」
「「「「にゃ、了解にゃ!」」」」
こうして、燃えた的と、水浸しの黒猫という代償と引き換えに、四匹は無事に(本当にギリギリ無事に)正式な冒険者として登録されたのだった。
受付に戻ると、あの受付嬢が四枚のFランクカードを用意して待っていた。
「おめでとうございます。これで皆さんも正式な冒険者です」
「にゃあああ、やったにゃ!」
「ついに一歩前進にゃ!」
カードを受け取り、はしゃぐ一同を見ながら、受付嬢はふと思い出したように付け加えた。
「そういえば、《猫神の贈り物》の伝承について、もう少し詳しい話を知っていそうな方がいますよ」
「にゃ!? 本当にゃ!?」
「はい。この王都の外れに住む、少し変わった学者さんです。伝承や古い文献に詳しくて……ただ」
受付嬢は、少し言いにくそうに言葉を濁した。
「ただ?」
「その方も――大変な猫好きで有名なので、話が長くなるかもしれません」
四匹の顔に、期待と一抹の不安が入り混じった表情が浮かんだ。
「……にゃ、それってつまり」
「同類の匂いがするにゃ」
こうして、冒険王を目指す一行の次なる目的地が、静かに決まったのだった。




