第014話 冒険者講習、魔法戦闘編
「近接戦闘の腕前はよくわかった」
ガロウが乾いた声でそう言うと、手元の評価表に何やら書き込んだ。
四匹はその内容が気になったが、あえて聞かないことにした。聞いたら傷つく気がした。
「次は魔法の実技を見せてもらう。魔法使い志望はいるか?」
「にゃ、俺にゃ」
シロが眠そうな目をこすりながら手を挙げた。ぎりぎり起きていたらしい。
「よし、まずは基礎的な水魔法からだ。あそこの的を狙って、水球を放ってみろ」
「にゃ……水にゃ?」
シロの尻尾の毛が、一瞬でぶわっと膨らんだ。
「水はちょっと……その……」
「魔法の話だ、実際に濡れるわけじゃない」
「にゃ……頭ではわかってるにゃ……でも体が拒否するにゃ……」
シロは震える手で杖を構えたものの、明らかに腰が引けていた。詠唱の途中で「水」という単語を口にするたび、体がびくりと反応する。
「み、水よ……にゃ……集まれ……にゃ……」
杖の先に、頼りなさげな水の球がぽわっと生まれた。だが標的に届く前に、シロ自身の集中が切れ、水球はぼたっと地面に落ちてしまった。
「……これが限界にゃ」
「魔法使いなのに水属性が苦手なのか」
「猫だから仕方ないにゃ!」
胸を張って言うことではなかったが、シロは至って真剣だった。
ガロウは無言で評価表にまた何か書き込んだ。今度は先ほどより文字数が多かった。
「他に魔法を使える者は?」
「にゃ、俺、ちょっとだけ使えるにゃ」
意外にも手を挙げたのはクロだった。タマとミケが驚いた顔をする。
「クロ、魔法使えたにゃ!?」
「基本の火種魔法だけにゃ。村で虫を炙る時に重宝してるにゃ」
「用途がすでに冒険者向きじゃないにゃ……」
クロは杖を構え、集中した様子で詠唱を始めた。
「火よ、灯れ……にゃ」
杖の先に、小さな火の玉が生まれる。狙いも悪くなく、真っ直ぐに的へと飛んでいった。
「おお、当たったにゃ!」
「にゃにゃ、やるじゃんクロ!」
的の端が焦げ、パチパチと小さく燃え始める。悪くない出来だった。
……が、その炎にどこからともなく一匹の羽虫が飛んできて、燃える的の周りをふらふらと飛び始めた。
クロの目の色が変わった。
「……あ」
「クロ?」
「虫にゃ」
「まだ試験中にゃ!」
「わかってるにゃ、でも……」
言い終わる前に、クロは杖を放り出し、既に四つ足で的の方へ駆け出していた。
「戻れー!!!」
タマの絶叫が訓練場に響き渡る中、ガロウは評価表を持つ手を静かに下ろし、目頭を押さえた。
「……お前ら、火の始末はちゃんとしろよ」
「「わかったにゃ!――」」
タマとミケの気の抜けた返事だけが、燃え盛る的の炎と共に、虚しく響いていた。




