第013話 冒険者講習、物理戦闘編
筆記試験をどうにか突破した四匹は、受付嬢に連れられ、ギルド裏手にある広い訓練場へと案内された。
「では次は実技講習です。基本的な戦闘動作と、簡単な模擬戦を行っていただきます」
訓練場には、木の的や案山子、そして訓練用と思しき木剣が並んでいた。指導役として立っていたのは、いかにも歴戦という雰囲気の犬獣人の教官だった。
「俺が実技を担当するガロウだ。よろしく頼む」
「「「「よろしくにゃ」」」」
ガロウは四匹をざっと見渡し、猫たちの装備に一瞬眉をひそめたが、何も言わなかった。プロだった。
「まずは近接戦からだ、あの案山子に攻撃してみろ。得物は自前でも素手でも、なんならそこの木剣を使っても良い」
ガロウの言葉にリーダーのタマが木剣を手に取り、構える。
「にゃ……にゃんか重いにゃ」
「重心を意識しろ。腰から――」
ガロウの指導が終わる前に、タマは思い切り木剣を振り下ろした。
「にゃ〜〜〜」
――が、的には全く当たらず、バランスを崩し尻餅をつく。
「にゃにゃっ!?」
「……重心って言ったろ」
「わかってるにゃ! でも体が言うこと聞かないにゃ!」
「それは分かってるとは言わん、次!」
ガロウの声に一歩進み出たのはクロだった。鍋の蓋の盾を外し、拳を握り構える。
「次はにゃーが行くにゃ!」
そう答え、構えを取ったその瞬間――訓練場の隅を、再びクロの視線を横切る小鳥が一羽。
クロの視線が、案山子から動いてる獲物に切り替わる。
「……あ、鳥にゃ」
「クロ、カカシが相手にゃ」
「わかってるにゃ」
返事は良かったが、視線は既に小鳥にロックオンされ、四つ足で鳥へと狙いを定める。
しなやかに構え気配を消すと、クロは野生の狩人になる。
「ダメにゃこりゃ」
箱の中でミケが呟くと同時に、クロが地面を音もなく蹴る。地面を突いたり首をクルクルと回す小鳥に迫る黒いハンター。
「んっ、にゃ〜〜〜〜〜!」
雄叫びを上げて小鳥に襲いかかるクロ。しかしその大音声に一瞬ビクリと体を震わせると迫り来る影の主を認め、すんでのところで飛び立つ小鳥。
「ズシャー、ゴロゴロゴロ〜〜」
獲物に逃げられ勢い余ったクロは盛大に転がる。
それをみたガロウは首を左右に振り、溜め息を一つつくと、手元の評価票に何事か書き込む。
続いてミケの番。木箱を抱えたまま構えの姿勢を取ろうとするが――
「その箱は下ろせ」
「にゃ……手放すと不安にゃ」
「実技講習だぞ」
「……にゃ」
しぶしぶ箱を下ろしたミケは、木剣を構えたものの、今度はやたらと的の陰に入り込もうとした。
「なぜ隠れる」
「的の後ろ、日向にゃ」
「戦ってるんじゃないのか」
「戦いながら、日向を探すのも、大事にゃ」
ガロウは無言でこめかみを押さえた。
最後にシロ。木剣を構えた姿勢は悪くなかった。実際、素振りも一応それらしい形になっている。
「お前は少し様になってるな」
「ふっ……それほどでもあるにゃ」
シロが少し得意げに笑った、しかしその直後――
「……ふわ」
大きな欠伸と共に、木剣がだらんと下がった。
「眠いにゃ」
「今か!?」
「日差しが、丁度いいにゃ……」
シロはそのまま木剣を抱えた格好で、地面にすとんと座り込み、船を漕ぎ始めた。
ガロウは、四匹を順に見渡し――ゆっくりと天を仰いだ。長年の指導経験の中でも、初めて見るタイプの受講生たちだった。
「……お前ら、本当に冒険者になる気あるのか」
「「「あるにゃ!」」」
三匹の声が綺麗にハモると、寝落ちしていたシロの鼻提灯が「パチン」と弾ける。
「……あ、あるにゃ」
シロはビクリ体を震わせると、遅れて叫ぶ。
取り敢えずみんな仲良しだと、ガロウは理解したようだった。




