第011話 冒険者講習、座学編
「では早速ですが、講習室にご案内しますね」
受付嬢に案内され、猫たちはギルドの奥にある小さな部屋に押し込まれた。長机が並び、正面には黒板。まるで学校の教室のような空気に、四匹は明らかに落ち着かない様子だった。
「にゃ……にゃんかこの空気、苦手にゃ……」
「じっと座ってるの、無理にゃ……」
「動いていい?」
「ダメにゃ」
タマが即答した。自分も内心は同じ気持ちだったが、ここでリーダーが崩れるわけにはいかない。
受付嬢が持ってきた小冊子を配りながら、講習が始まった。
「まず、ギルドにおける基本ルールその一。依頼は必ず受付を通して受注してください」
「わかったにゃー」
「その二。依頼の途中で正当な理由なく任務を放棄した場合、信用度が下がります」
「わかったにゃー」
「その三。ギルド内や依頼先で、他の冒険者や依頼主に迷惑をかける行為は――」
――カサカサ。
受付嬢の声が止まった。全員の視線が、窓際に向かう。
そこには、部屋の隅を横切っていく小さな蛾が一匹。
クロの目が、完全にそちらへ固定されていた。
「クロ?」
「……にゃ」
「クロ、聞いてるにゃ?」
「蝶々にゃ」
「ダメにゃ、スイッチ入ってるにゃ」
箱に入った自分は棚に上げて、クロのスイッチに言及するミケ、それと同時に、クロがゆっくりと椅子の上にしゃがみ、四つ足の姿勢でターゲットに狙いを定める。
「ロックオン、にゃ」
「クロー!!」
タマの制止も間に合わず、低く腰を落としたクロは――跳んだ。
「うっ、にゃあぁぁぁ〜〜〜」
椅子がけたたましい音と共に後ろに蹴り倒され、突然の狂行に受付嬢が短く「ひゃっ」と声を上げた。
蛾は悠々と天井付近へ逃げ、クロの右手は虚しく空を切ると床に着地した。
「……にゃ。仕留め損ねたにゃ」
「講習中にゃ!!!!」
「ズドンッ」とクロの脳天にチョップが突き刺さり、タマの怒声が講習室に響く。
受付嬢は、倒れ椅子と床に悶絶するクロを見て、営業スマイルを保つのに全神経を集中させていた。
「……えっと、その三、続けますね。他の冒険者や依頼主に迷惑をかける行為は、減点対象です」
「にゃ……もう減点されてる気がするにゃ」
ミケが箱の中からぽつりと呟き、――誰も否定できなかった。
こうして、王都史上――おそらく最もまとまりのない講習が、この日始まった。




