第010話 ギルドマスター、タマ
受付嬢は広げられた羊皮紙をまじまじと見つめ、そこに書かれた文字を目で追った。
「……えっと、これは……『たまギルド』発行の依頼書?の様なものですね……」
依頼書だと拡げられた羊皮紙は、ところどころが黄ばみ、端は少し丸まっている。押されている印章も、王都ギルドの公式ものとは明らかに違う、手作り感のある肉球スタンプだった。
「にゃ! うちのギルドマスター(タマ)が発行した、正式な依頼にゃ!」
「発行者、タマ本人が今ここにいるにゃ」
「にゃにゃにゃ!」
「自分で発行して自分で受注したにゃ!」
受付嬢のこめかみに、うっすらと汗が浮かぶ。
「……つまり、この依頼は、冒険者ギルドの公式依頼ではなく……皆さんの村の、内部で発行された依頼、ということですね」
「そうにゃ!」
「でも正式にゃ!」
「印章もあるにゃ!」
「……印章の権威については、少々お答えしかねますが……」
受付嬢は、崩れかけていた営業スマイルを何とか繋ぎ止めながら、丁寧に頷いた。
「なるほど……つまり皆さんは、独自に《ワンチュール》の探索依頼を立てて、それを自分たちで受注し、実行中、ということですね」
「そうにゃ! わかってるにゃ!」
「顔だけじゃ無かったにゃ」
「違うにゃ、オッパイも立派にゃ」
「何処見てるにゃ、セクハラにゃ!」
タマがクロの頭を軽く叩く。
受付嬢は一つ咳払いをすると、話を整理するように口を開いた。
「では、王都ギルドとしてできることは、情報提供のご協力と……もしよろしければ、皆さんを《正式な冒険者》として、当ギルドに登録することです。今のままでは、依頼を受けても正式な実績として認められませんし、危険な場所への立ち入り許可なども下りません」
「にゃ!? 登録できるにゃ!?」
「にゃにゃ、俺たち、本物の冒険者になれるにゃ!?」
四匹の目が、期待に輝く。
受付嬢は、内心「これは前途多難だ」と思いながらも、営業スマイルでそれを覆い隠した。
「はい。ただし、登録には簡単な筆記試験とと実技講習がございます」
「「「「にゃ!?」」」」
止まった空気に、シロがぽつりと呟く。
「……にゃ、筆記試験って、何すればいいにゃ?」
受付嬢は資料をぱらぱらとめくり、にこりと笑った。
「ギルドや冒険者としての基本的なルールなど、簡単な講習を受けて頂いて、その後理解されたかどうかの試験が御座います」
猫たちは互いに顔を見合わせた。
……試験。
彼らが最も苦手とする二文字が、そこに並んでいた。
「にゃ……にゃんか、嫌な予感するにゃ」
タマの呟きに、誰も反論できなかった。




