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胞子系終末短編集  作者: 胞子観測者
9/11

森分館観測記録

観測記録は随時追加される

低温生命体図書館 森分館


むっ、と立ち込める森の空気に、静かな木々のそよぎに、じっと耳を澄ませて、彼らの内部を通る緩やかな繋がりを感じる。


森の図書館は、ぼんやり光るキノコのように生えてくる本を、そっと収穫する場所。


必要な分だけ整い、司書の手によって吸い付くように収穫される。


彼らは読まれることに頓着はしない。

ただ生えてくるだけなのだ





「今日、森の匂いが焦げっぽくないですか?」

いつもは湿気を帯びる森の図書館の収穫棚は、今日はどこか乾いていて、木々の呼吸も心持ち浅い気がした。

「そうねぇ」

前をゆく先輩はそう言いながら、

その本はこっちの籠に、この本と右上の本は中央図書館に、と指示を出す。

森が実らせた本を手分けして収穫、仕分け、配送するのは、森の図書館司書の大切な仕事である。

一通り収穫と仕分けが終わった頃、

「あら」と先輩が手元の本を見返し、僕に手渡した。

「久しぶりに実ったわねぇ」

そう言って、実らせた木を一撫でした。


本には『炎天の館行き』と書かれていた。






「ゲホッ、げほげほ」

「ちょっと今日絶対、谷行きが大量じゃないですか」

司書たちは、むせ返る霧と胞子に咳をして慌ててマスクをする。

先輩が早朝からマスクをしていたことを思い出す。


「そうねぇ」

先輩は何事もなさそうに本を次々収穫し、仕分けする。

籠に入る度、本から胞子の粉が舞う。





「なんか今日、潮の匂いがしますね?生臭いって言うか…」


前をゆく先輩に声をかける。

収穫される本はどこか湿り気を帯びて密かに波打つようだ。

「そうねぇ、あら、猫みたいな生き物がきてるわよ」

南国の海のような色の被毛の生物が、ふてぶてしくも収穫棚に寝そべって尻尾をゆらゆらさせていた。




「あら、いい風」

先輩がそっと呟いて目を細める。


いつものむせ返るような木々の匂いに、洗い立ての洗濯物のような匂いが交ざり、どこか高地の爽やかさがあった。


「丘行きが多いみたいですね」僕が本を受け取りなが言う。

少し乾いて軽くなった収穫棚を見ながら

「今日は星見酒にしましょうか」





「なんか今日、うっすら輝いてますね…」


木々の間を薄い霧が漂い、光を受けて虹色に反射している。


「そうねぇ」


先輩は収穫棚の間に生えた白金の植物を丁寧に避けつつ、本を収穫する。



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