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胞子系終末短編集  作者: 胞子観測者
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丘分館観測記録

観測記録は随時追加される。

海からきた人  低温生命体図書館 丘分館


私は図書館のある丘の上から町を見下ろす、我が故郷は遥か。

傍らをオカクラゲが実に和やかに、ふわりふわりと広がり縮み、時には互いを融合させながら漂ってる。

丘の人々はこれをただ、クラゲと呼んでいるようだ。

私にいわせればこれは、クラゲではない。

海の町ではこの空中を漂い、彷徨うような薄く淡い存在をクラゲもどきと呼んでいた。

そしてもちろんクラゲもどきがいるならば、クラゲもいるものだ。

クラゲは海の中を浅く深く漂ってる。

どちらも意志があるのかないのか分からないが、クラゲについていえば、彼らは形は比較的明確だ。

丘の人々はおおらかに世界を見つめていた。

私はそのおおらかさに、少しだけ息をゆるめる。

分類しきれないものが、分類されないままそこにいることを、誰も気にしていない。

オカクラゲは今日も、意味の縁をなぞるように漂っている。

その揺れは、どちらの世界にも完全には属していないのに、どちらからも見えてしまう。

私は望郷の念を、

オカクラゲをつつくことで、なぐさめる。

つついた場所から、少しだけ形が変わる。

けれどそれが「変わった」のか「見え方が変わっただけ」なのかは分からない。

丘の図書館の扉は、開いているようで閉じているようで、

ただそこにあるだけの状態で私を待っている。

私はそこへ入っていく。

入るというより、

認識のほうが先に切り替わるようにして。

図書館の中では、名前が少しだけ静かになる。




丘分館の手記


強くかわいた風に

クラゲたちは抗わず、

風の流れのままに舞い上がり、通りすぎていく。

タンポポの綿毛のように。


今日から明日の夜はクラゲに邪魔されず

星を観測できるだろう。




丘分館  雨の観測記録


普段は見晴らしの良い丘が強い雨で煙っている。


街はぼんやりと輪郭をなくし、

オカクラゲは雨にうたれて波打つ

 

私は傘をさし足早に図書館に入った。

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