学者と弟子1 谷分館派遣決定
学者と弟子1 谷分館派遣決定
『学者を谷分館に派遣して欲しい』と
中央図書館の館長から手紙を受け取ったのは、
学院が夏季休暇に入った三日後であった。
生徒も教授も里帰りや、フィールドワークで学院はガラリとしている。
うむ、旧知の仲の彼を助けたいのは山々だが、どうしたものか。
学院長は腕を組んで考えた。
そもそも人類学の教授は数が少ない。専攻する生徒が少ないせいで、自ずとそうなる。
人文学や分類学の教授達は皆各々の目的を持って学院を出払っている。
学院長は一人一人、学院に滞在している教授の顔を思い浮かべた。
今学院に残っているのは、数学の教授と科学の教授か。
いや、歴史を教えている教授も今季は里帰りはしないと言っていたな。
…彼は第一志望は人類学だったんじゃないか?
人類学を専攻で学ぶ生徒が少ないせいで、普段は歴史の教鞭を取っているが。
たまに高齢の人類学の教授の代わりに壇上に立っていたはずだ。
うんうん、ちょうど良いじゃないか。才能が腐らずにすむと言うものだ。
学院長はにっこりして、学院の教授塔から人類学志望の歴史学者を呼ぶことにした。
教授塔から呼ばれた学者と、その場に居合わせたらしい弟子はぽかんとしていた。
「えぇと、今なんと?」
学院長は根気強く繰り返す。
「うん、谷分館で人類学の書籍が大量発生してるようでね。ぜひ君に谷へ赴いて、調査して欲しいんだよ」
君、人類学志望だったでしょ?
と歴史学者に向けて言外に首を傾げる。
「はぁ、大量発生…?」
「うん」
「あの、こちらに送って貰うことは?」
「うん、どうやら、抵抗にあって増えるらしくてね」
弟子が思わず口を挟む
「…?誰が抵抗して、何が増えるんです?」
「私もよくは分からないんだがね」
「はぁ、あの私も抵抗にあうのでは…?」
「うん、たぶん大丈夫だろう。図書館の館長くんが学者が来れば大丈夫だと言ってるんだから」
たぶん…。
学者と弟子は図書館の館長の顔を思い浮かべた。
少し浮き世離れた空気をまとっているが、真面目で親切な人だ。
私たちは急遽、荷物をまとめて谷分館へ行くことを決めた。
君も来るのかと聞かれたが
うっかり貴方が左遷されてはいけないので、と馬車の向かいに乗り込んだ。




