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ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています  作者: minori


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8.花畑


「わぁ、綺麗……!」


 久々に来た領地の端の花畑。

 美しい花が咲き乱れる原っぱに寝そべりながら、大きく深呼吸した。

 懐かしい。ここでよくお父様とお母様と小さい頃にピクニックをしたのを思い出す。あの頃は今ほど貧乏という訳でもなかったから、軽食も沢山もっていって外で食べるのが楽しかったっけ。


「本当に好きなんだな、ここが」

「はい、忙しくて随分と来れてませんでしたが、久しぶりに来られました」


 レオンハルトがどかっと私の横に腰を下ろす。

 いつもの服装と今日は違う。いつもは貴族らしく高価そうな服を着てくるけど、今日は朝に仕事でもあったのか騎士団服を着ている。

 ゲームでよく見た格好だ。というか、貴族たちも戦争狂というイメージのレオンハルトだと、この服装のイメージが強いだろう。全身黒の装備服は血を目立たせないためにこの色にしているとか。


「それにしても、仕事終わりとかですか? そんなに無理して来なくて良いのに」

「あぁ、いや……」


 さすがに1週間と少し仕事もせず遊び惚けていたら、弱小貧乏男爵家ならまだしも、公爵家の仕事なんて恐ろしいことになっているだろう。

 私がそう尋ねると、レオンハルトは少し気まずそうに目を反らした。そして、少し言いずらそうにしながらおずおずと私に尋ねる。


「こう、なんかないか?」

「何がです?」

「これを着た俺を見て……」


 なんだ、褒めてほしいみたいだ。

 別に見た目がきれいなレオンハルトが何を着ていても、よく見えるに決まっているのに。

 私は淡々と言葉を返した。


「お似合いですよ、その服も」

「……あぁ、そうかよ。そりゃ良かった」


 少し不貞腐れたような口調でそう言うレオンハルト。

 もっとちゃんと褒めてほしかったのだろうか、さすが俺様ナルシスト。面倒くさい男だ。


 それにしても今日は良い天気だ。気持ちの良い風が吹く。あの部屋に充満していた花の香が、今はこんなにも自然に近くにある。何度か深呼吸をした後に、私はメイド達に用意してもらったバスケットを開けた。

 もうお昼時だ、お腹が減ってきた。


「早速食べましょうか、良い風も吹いているし」

「あぁ、俺も少し持ってきた」


 そう言うと、ゴテゴテした黒の騎士団服を着ているにも関わらず、レオンハルトが可愛らしいバスケットを出した。

 ミスマッチで面白いな、と眺めていると彼が出したのは二人分のサンドイッチだった。


「サンドイッチですか、いいですね」

「……あぁ、そうだな」


 レオンハルトはまた少し不貞腐れる。

 そして、サンドイッチをむしゃむしゃと食べ始めた。

 今日は機嫌が悪いのだろうか、それなら無理してこなくて良いのに。

 私もメイド達が用意してくれたバスケットを開く、キャロットラペやチキンをオイルで煮たもの、バケット、サラダにデザートとしてクッキーや果物が入っていた。

 私は大きなハンカチを広げて、綺麗にそれをレオンハルトの前に並べ、食べ始めた。


 レオンハルトは無言でむしゃむしゃと食べている。

 やっぱり花畑しかないところでは、思ったほどつまらないのだろうか。

 それにしても、今日はちょっと様子がおかしいような気もするが。


「今日なんか様子がおかしいですね」

「俺からすればお前がおかしいけどな」

「なんでですか」

「さぁな」


 そりゃあ華やかな公爵家と違って、うちは貧乏男爵家。

 少しお金のあった時代でも、レオンハルトからしたらとてもささやかな楽しさしかなかったけど、そんなに不機嫌になるなら来なくても良いと思うのだが。

 私は少しむっとした顔で、レオンハルトにチクりと言った。


「あのですね、レオンハルト様にとってはつまらない場所かもしれませんが、私にとっては両親との思い出でもあり大切な場所なんです。そんなに不貞腐れるなら、お帰りいただいても結構ですよ」

「な、ちがっ! 俺はな……」


 そこに沢山の子供達の声が聞こえてきた。

 なんだろう、と二人で声のしてきた方を見ると、沢山の子供達と手を繋ぎながら歩いてくる大人が一人と後方にシスターのような方が一人いた。

 遠目でも誰が来たのか、私にはすぐにわかる。あれは……。


「ユリアン!?」


 私は思わず、立ち上がって叫んだ。

 そう私の最推しユリアン様だ。

 もうすぐ若き司祭となる彼がどうしてこんなところに……。

 私の声を聞いて、驚いたような顔をした後、ユリアンは少し戸惑いながらこちらへとやって来る。


「失礼いたしました、高貴な方がいらっしゃっているとは知らず、子ども達と来てしまいました」

「あ、いえ……そんな……ぜひ、楽しんでください。私たちの事は気にせずに」

「あいがとうございます」


 ふわっと穏やかで優しそうな笑みを浮かべるユリアン。

 さらさらとした銀髪。右目の下の黒子。水色の透き通った綺麗な瞳、間違いなくユリアンだ。司祭になる前はこんな近くにいたのか。


「私の事をご存知なのですか?」

「い、いえ。えっと……どこかでお会いしたような……」

「あぁ、そうですね。教会の事で色々と異動することも多くて。今度はカルムに行くんです。今日は子供たちと離れる前の思い出作りで、こちらへ」


 そうか、カルムに来る前はここに居たのか。

 カルムはうちの領地であるヘイスティングスのすぐ近くの田舎町だ。うちの男爵邸からもかなり近い。だからこそ、セシリアとユリアンは接近していくのだけど。

 ここでは良い印象を持たせておいた方が良いだろう。

 私は親しみ深い笑顔でユリアンに微笑みながら、改めて挨拶をした。


「私はセシリア・ヘイスティングスと申します。カルムとは近いですね、これからよろしくお願いします」

「そうだったのですね、こちらこそよろしくお願いいたします」


 ユリアンも穏やかににこにこと微笑み返す。

 第一印象は悪くはないのではないだろうか。

 私がニマニマしていると、ずっと黙っていたレオンハルトが不機嫌な声で憮然と言い放った。


「俺は、レオンハルト・グランツ。最近セシリアの婚約者になった者だ」

「なっ……!」


 今ここでそれを言わなくても!

 私が慌てふためいている中、レオンハルトはぶすっとした顔で座り込んでいる。

 ユリアンは不機嫌そうなレオンハルトを見て、少し驚いたような顔をした後に、レオンハルトに対して丁寧にお辞儀をした。


「それはそれは。お二人の邪魔をしてしまい、申し訳ございません。そして、ご婚約おめでとうございます。またどこかでお会いしましたら、よろしくお願いいたします。では、これで失礼いたします」


 ユリアンは愛想の良い顔をして、こちらを立ち去ろうとする。

 私は慌ててユリアンを呼び止めた。


「あ、あの……良かったら、これ。クッキーと果物です。子供達とぜひ召し上がってください」

「わぁ、こんなに。ご親切にありがとうございます。子供達も喜びます」


 ユリアンは嬉しそうに私からクッキーと果物を受け取ると、丁寧にお辞儀をして子供たちの元へと帰っていった。

 あぁ、リアルユリアンはやっぱり素敵だ。ゲーム通り爽やかで優しくて穏やかで。

 彼がカルムに来るということは、もうユリアンに会える時期。ゲームが始まる頃の時期なのか。

 という事は、王女様もそろそろご婚約が決まるはず。私たちの仮初の婚約もそろそろ終わりを迎えるのか。

 ……そうか、終わりなのか。なんだか毎日のようにレオンハルトに会っていたから変な気分だ。


 私がぼうっとそんなことを考えていると、レオンハルトは不機嫌そうな態度で立ち上がった。急にどうしたんだろう、とレオンハルトを見るとレオンハルトはぶすっとしたまま一言言い放つ。


「帰るぞ」

「え?」

「それだけじゃ足りねぇだろ、あんなにばくばく食うような奴が」


 レオンハルトは待たせていた馬車に一人向かい、乗り込んでいった。

 今日はなんでこんなに機嫌が悪いんだろう。私も手早く広げていたものを片づけて、急いで馬車に向かった。


読んで頂きましてありがとうございました。

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