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ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています  作者: minori


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47.陽だまり


 レオンハルトは静かに話を続ける。


「あの頃は、ずっと苦しかったんだ。いつものように帰って来ると思っていた父親の訃報も、急に戦争に出て先頭で指示を出し、戦う自分の責任も、当主になりたての若造だと高をくくって色々言ってくる愚かな親戚や貴族たちにも。毎日毎日……本当にうんざりだった」


 王女や公爵夫人から少しは聞いていた。

 でも、いつも強気な表情をしているレオンハルトが、こんなにも疲れ切ったような顔で話している姿を見ると、それがどんなに辛くてしんどい事だったのか。想像ができない。

 私は、レオンハルトの肩に寄りかかるようにして寄り添った。

 レオンハルトは頬杖をついていた腕を動かし、そっと私の手を握り、話を続ける。


「お前の両親が初めて、俺を庇護対象かのように言ったんだ。サンドイッチも食わせてくれてさ。あの時、本当に久しぶりに食事が喉を通ったし、味もようやく感じ取れた。お前もくれたんだ、もっともお前は嫌いなトマトの入ったサンドイッチを俺に押し付けたいだけだったみたいだけどな」

「それは……申し訳ないです」


 私が小さな声でそう言って俯くと、声を上げてレオンハルトは笑った。

 あまりに笑うものだから、つられてくすりと私も笑う。

 レオンハルトの方を見ると、優しい顔で私を見つめていたものだから面食らってしまった。


「ずっと探してた、この陽だまりみたいな笑顔」


 まっすぐに見つめられ、目が逸らせない。

 それに、”陽だまりみたいな笑顔”は、よく母と父が私に言ってくれていた言葉だった。母はふざけてよく”陽だまりちゃん”なんて言いながら、私のほっぺをふにふにと触って遊んでいたっけ。

 本当に、両親とレオンハルトと私は過去に会っていたのだろう。


 そうか、だから最初から婚約解消に頷いてくれなかったのか。

 いや、でもそうだとしたら……。

 この言葉が無ければ、もっとスムーズに事が運んでいたのに。


「じゃあ、隣に居たからな訳じゃなかったじゃないですか。私を婚約者に選んだの」


 この事実に気が付き、唇を尖らせながら反論すると、同じようにレオンハルトはムッとした顔で返してきた。


「お前が可愛くねぇ事ばっかり言うから、言っちまったんだろ。それに、俺だけ覚えてるのも癪だったしな」


 あぁ、ここでこの男のプライドの高さが仇となってしまったのか。

 最初から言ってくれたら、こんなに拗れる事もなかったのに……と思いつつ、無理やりでもこんな風にレオンハルトと一緒にいる時間を作らないと、彼を今のような目で見る事はなかったかもしれないとも思ったり。

 

 レオンハルトは握っていた手を少し離して、改めて指先を絡めて握り直した。

 恋人繋ぎに変わった二人の手を見て、照れくさくなり目を逸らそうとする。

 そこに頬をそっともう片方の手で添えられ、レオンハルトと視線が交わるように顔を戻された。


「パーティで初めて会った時、ようやくわかったんだ。あの陽だまりを見つけたって。なのに、お前俺の事すっかり忘れてるんだもんな」

「いや、だってそれは……覚えてないですよ」

「あの司祭の事は覚えてたらしいじゃねぇか」

「それは……とにかく、両親が亡くなった後、過去の事を振り返る余裕も気力も無かったんです」

「それは悪かった、良い両親だったもんな」


 レオンハルトは頬を添えていた手を離し、またあの優しくて少し熱い眼差しで私を見つめる。


「この花畑で味わったあの幸せを抱えて生きていきたいと思ってた。てっきり平民だと思ってずっと探していたのに、まさか貴族だったとは。貴族とは思えない恰好だったから……あぁ、悪い。嫌な言い方しちまった」

「いいですよ、本当の事だから」


 レオンハルトから見たら、私たちの格好なんて平民にしか見えないだろう。それに、実際作業しやすかったり、外に出る時は機能性を重視して平民みたいな恰好をしていたし。

 綺麗なドレスは有事の際に使うから、替えのきく服といえばそういう服装になってしまうのだ。


 貧乏だったせいの弊害がこんなところに出てくるとは。

 レオンハルトは苦笑しながら、話を続ける。


「俺を見るとお前の領民たち、急いで隠れるんだよ。子どもくらいだったな、俺と話してくれたのは。その子に死んだとだけ聞いて。もう会えないと思ってた」


 ……まぁ、社交界の問題児で戦争狂と呼ばれている男に近づきたい人間なんて居ないだろう。それに、見た目もなかなか強面だし。

 すれ違ってしまった理由もレオンハルトの素行のせいならば、自業自得というもの。


 なんだか、貧乏のせいとか、レオンハルトの気質のせいとか、色々な要因で私たちはだいぶ遠回りをしてしまっていたらしい。

 しかし、なんとなく分かった。

 小さい頃のこの出会いが、既にレオンハルトルートへの重大な布石になってしまっていたのか。

 最初からユリアンルートになんて、いけなかったのかも。


 私はその事実に気が付き、今まで何をしていたんだろうといった虚無感を覚える。

 しかし、目の前のこの男がどうしようもなく愛おしいのだから仕方ない。


 レオンハルトは、また私の頬に手を添えた。

 視線が静かに交わる。


「まぁ何が言いたいかって言うとつまりさ、お前だよ。探していたのは」


 今まで見た事ないくらい、一番優しくてあたたかくて熱を持った瞳が私の胸を心地良く締め付けた。

 


読んで頂きましてありがとうございました。

あと3話更新予定で、本日完結いたします。

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