45.臨機応変な守秘義務
「聞けばいいじゃないですか、直接」
「それができないから今こうしてぐだぐだと話しているんじゃないですか」
「あはは、ぐたぐだと話していらっしゃる自覚はおありだったんですね」
私は例の如く、悩んだ時の駆け込み部屋であるユリアンの元へと来ていた。
あのパーティが終わった後も、レオンハルトと何度か逢瀬を重ねているが、頭の中は例の”庶民の女性”で頭がいっぱいで。
別に過去の事を聞きたい訳じゃない。
今は今、と思っている。が、やっぱり少し気になってしまうのだ。このプライドの高いレオンハルトが平民の女性に恋をするなんて、相当好きだったのかも、とか。
そういえば、私好きとは言われているけど、なんで好かれているのかは言われた事なかったなとか。
気になってしまえば、色々な事が気になってしまう。
恋愛をしている女性というのは、こういうものなのだろうか。
という事をユリアンに話せば、冒頭の回答が返ってきたという。
ユリアンに毎度毎度こんな相談をして申し訳ないが、エマに話せば黄色い声が返ってくるばかりなのは想像できるし、なんだか気恥ずかしいし。
元々好きだった人に恋愛相談をする、というのもおかしな話なのだが、ユリアンが一番話しやすくて、ついここに来てしまった。
「あんな事を仰っていた方が、こんなにも夢中になってしまうなんて。公爵様はとても魅力的な男性なんでしょうね」
「いやぁ……どうなんでしょうね」
「照れなくてもいいですよ」
「照れていませんよ。私自身、どこが好きなのかよくわからなくて」
「どこが好きなのか分からないのは、きっと全部が好きなんでしょうね」
「え? 流石に自己中心的なところとかは、良くないと思いますけど……でも、そうじゃないとレオンハルトじゃないですもんね。何が好きなんだろうなぁ」
私がそう呟くと、ユリアンは楽しそうにくすくすと笑った。
「欠点をも好きになるのは、最大の愛ですよ。自信を持ってください」
「自信って、そんな……」
ユリアンにそう指摘されると、なんだか照れくさい。
私は顔を赤らめながら俯いた。
その時、外が騒がしくなる音が聞こえ、どすどすと不機嫌そうな足音が聞こえるや否やバンっと扉が開いた。
「お前はまーたこんなところに居たのか!」
レオンハルトが両腕に一人ずつ、首に一人の子どもをぶら下げて、教会の子供部屋へと入ってきた。青筋を立てて怒っている。のに、子どもが楽しそうに三人もぶら下がっているせいで、あまり怒っているように見えない。
「こんにちは、公爵様」
穏やかな笑顔で挨拶をするユリアンに、レオンハルトは苦虫を嚙み潰したような顔で舌打ちをした。
「こら、舌打ちしないの」
「舌打ちされるような事すんなよ」
「してないじゃないですか」
「他の男のところに行くなよ」
「ユリアン様にお話があったから来たんです」
「何の話があるってんだよ、今」
「それは……」
小さな小競り合いが始まり、私が言い詰まる。
そんな昔の女が気になって、なんて言うのはちょっと……。そんな事気にしても仕方がない、と分かっている分口に出したくないというか。
私が言い詰まっていると、ユリアンが間に入ってくれた。
「あーはいはい、落ち着いてください。二人とも。子どもの前ですよ」
そう言うと、レオンハルトの腕でぶら下がったり遊んでいる子供たちを一人ずつ下ろす。最後に首にぶら下がった子を抱き上げると、レオンハルトににっこりと笑って言い放った。
「安心してください、公爵様をお好きなせいでお困りだというご相談でしたから」
衝撃的な発言に私は思わず立ち上がって、叫んだ。
「ちょ、ユリアン様! 守秘義務は!?」
「臨機応変です。素直になってください、セシリア様。今は公爵様の方がずっと素直だと思いますよ、見習ってください」
「私が、このレオンハルトを……見習う……?」
「なんでショック受けてんだよ、失礼だな」
私がユリアンに言われた言葉にショックを受けていると、レオンハルトがぴしゃりとそう言い返した。
ユリアンは子供を抱っこしながら、ゆらゆらと揺れている。子どもも、急にうとうとと目を閉じ始める。
ユリアンは少し声を小さくして、私達二人に言った。
「とにかく、もうすぐお昼寝の時間ですからね。そろそろお帰りいただきましょうか。それに、良い機会です。二人でゆっくりと静かな場所で話してみてください。では、お出口はあちらです」
にこやかに部屋の扉に手を差し伸べられ、半ば追い出されるような形で教会から出た。
追い出されてしまった、と思っていると、レオンハルトが教会を出てすぐのベンチにドカッと偉そうに座る。その隣に、私もとりあえず座ることにした。
私たちはいったい、何をどう話せば良いのだろうか。
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