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ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています  作者: minori


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44/50

44.靄


「とても素敵なドレスですね」

「本当に。公爵様の瞳の色と同じ素敵な赤色ですね」


 女性二人からそのように話しかけられ、飛んでいた思考を戻す。

 愛想笑いを浮かべながら、簡単にお礼を述べた。

 単純に話しかけられたのだろうか、あまり参加自体した事はなかったから今回も誰からも話しかけられることがないだろうと思ったのだけど。

 適当に愛想笑いを浮かべたまま応対をしていると、そのうちの一人が扇で口元を隠しながら含みのある言い方をした。


「いつも着ていたような控えめなドレスとは全く違う印象ですわね」


 あ、これはちょっとトゲがあるな。

 扇で口元を隠してはいるが、目が笑っていない。

 なるほど、レオンハルト関係の人たちだったか。そういえば、あの男がよくモテていた事を今更ながら思い出す。それは想定外だった。


「公爵様におねだりされたのかしら」


 おぉ、直球のトゲが来た。

 王女からの圧力だけを想定していたけど、そうか。こういうモブ令嬢たちも攻撃をしかけてくるのか。爵位も男爵位だし、なかなか強くも出れない。

 少し悩んだが、こういうのは効いてないアピールの方が効くだろう。

 私は先ほどと変わらない笑顔を貼り付けながら対応をする事にした。


「いえ、公爵様が贈ってくださったのです」


 レオンハルトが自分の瞳の色を好んで贈ったなんて言ったら、面白い事になりそうだが、特に面白さは求めていないので、適当に返す。

 それが少し気に食わなかったのか、眉をピクリと動かした。扇で口元を隠したまま、目を細めて笑っているフリをしている。


「まぁ、そうなの」

「ヘイスティングス領ですと、こういったドレスをお作りになるのも大変でしょうしね」

「えぇ、そうですね。ですから、公爵様が贈ってくださって嬉しかったです」

 

 これ、いつまで続くのかな……。

 今レオンハルトに対して好意を持っている私が言うのもなんだが、正直あの男の何が良くて好きなのか未だによくわからないし。向き合うまであの男と懇意になろうなんて思いもしない自分勝手さと悪評なのに、どうしてこうもモテるのだろうか。腐っても公爵家当主という事なのだろうか。

 あまりに私が他人事のように話すのに痺れを切らしたようで、笑っているフリもせずに吐き捨てるように目の前の女性は言った。


「公爵様は庶民の女にご執心だったと聞きますし、貴方のような方がきっとお好みなのね」


 今度は私の方がピクリと口元を動かした。

 そんな過去があったのか。まぁでも、あのモテ男が私に出会うまでに色恋の一つや二つ遊びも含めて沢山あっただろうしな。

 そう頭の中で考えるも、少しもやもやする。

 そのせいか、こちらも小さく反撃に出てしまった。

 

「公爵様の好みのタイプの女性で良かったですわ。庶民のように実直に頑張ってきた甲斐がありました」


 せっかくのパーティなのに、ギスギスとした空気が流れている。

 これ以上特に会話が無いなら引き下がろうと思うが、行く手を阻まれている形で立たれると難しいなと困っていると後ろから声がかかった。


「ようやく会えた、セシリア」


 そのまま後ろから抱き着かれる。

 驚いて後ろを振り返ると、王女殿下だった。

 王女殿下は体を離し、隣に居る隣国の王子の腕を引いて私を紹介してくれた。


「彼女は私の親しい友人なんだ。絶対にあなたに紹介しておきたくて。ほら例のあの子のこと」

「あぁ、あなたが。私と王女との縁を繋いで下さり、ありがとうございます」


 王子はなんとも嬉しそうな笑顔で私の手を取り、ぶんぶんと激しく握手をした。

 王女がどのように私の話をしてくれたのか分からないが、すごい歓待だ。

 私がその勢いに圧倒されていると、王女殿下が笑みを貼り付けて三人の貴族の女性に顔を向ける。


「私の大切な友人なんだが。彼女を解放してくれるか、せっかくの機会だからよく話しておきたいんだ」


 圧のある言い方に、すぐ頭を下げて三人の女性は引き下がった。

 あまりに華麗に王女に助けていただいてしまったな、と思っていると私を見て少し豪快に王女が笑う。


「ははっ、早速絡まれていたな。あぁいうのものさばらせてはいけないぞ、公爵夫人になるんだから。強くいきなさい」

「は、はぁ。あ、それより! 王女殿下、ご結婚おめでとうございます」

「ありがとう。本当にお前の言う通りだった。こんなにも素敵な殿方と一緒になれるとはね。陛下にも感謝しないとな」

「私もあなたのように素敵な女性と未来を生きる事が出来て、幸せです。神に感謝します」


 手を取り合い、熱く見つめ合う二人。

 本当にお幸せそうだ。あまりに熱い温度でお幸せそうで、なんだかこの二人の姿を見つめていて良いのだろうかと悩んでしまう程。


「お幸せそうで本当に良かったです、本当におめでとうございます」

「ありがとう。今日はもしかしたら話せないかもしれないと思っていたから、こうやって少しでもゆっくり話せて良かった。もう男爵令嬢ではなく、公爵夫人になるんだ。それに、ヘイスティングス領もどんどん富を上げるだろう。先ほど言った言葉を忘れるな、強くいなさい。セシリアが強くいないと、舐められるのは背後の家門なんだから」


 先ほど適当に応対していたのは良くなかったのか。確かに、王女の言う通り。

 レオンハルトとの結婚以前に、私は公爵夫人になる覚悟というものも足りていなかったのだ。

 それに気が付かせていただけて、良かった。

 

「はい、肝に銘じます。ご助言ありがとうございました」


 私がそう言うと、王女は優しい笑顔で少しずつで良い、と言って微笑んで王子とまた腕を組んだ。

 もうお別れの時のようだ。

 そういえば、ずっとレオンハルトと結婚をすると幼い頃から言っていた王女殿下なら、もしかして先ほどの”庶民の女”についてご存知かもしれない。


「あの、王女殿下……」

「ん?」

「あ、いえ……王女殿下のお幸せをずっと祈り続けています」


 こんな場でレオンハルトの過去について王女殿下に聞く訳にはいかない。

 思い直した私は、そう微笑んで王女殿下にお辞儀をした。

 王女殿下はキラキラとした笑顔で私に笑みを返す。


「ありがとう、私も同様だ。幸せになってくれ、レオンハルトと」


 隣国の王子も私に小さく会釈をして、パーティ会場へ戻っていった。

 パーティは少しの時間を置いて、お開きとなった。

 私の胸に小さな靄を残して。


読んで頂きましてありがとうございました。

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