43.道を阻む影
「なんだよ、急に」
「いやな、お前にご婚約者様が出来てから全然会えてなかったし、お会いしたくてな。社交界の問題児を手懐けた勇敢なお嬢様を。どうも、コイツとは長い仲のコーランです。これから俺とも仲良くしてくださいね、セシリア嬢」
私に人懐っこい笑顔を向け、レオンハルトに一方的に肩を組みながら、ひらひらと手を振るこの少し軽い雰囲気の男はコーラン。レオンハルトの古くからの友人で、伯爵家の方だ。身分差が随分あるものの、戦場を共にし、子どもの頃からの縁もあり、この問題児とうまく付き合えている懐の深い男性。
派手な赤髪に人懐っこい笑顔、少し軽くて親しみやすい彼はもちろん攻略対象だ。ユリアンの次位に好きなキャラクターだった。
私は興奮で抑えられない気持ちを懸命に抑えながら、コーランにお辞儀をしながら挨拶をした。
「セシリア・ヘイスティングスです。よろしくお願いします」
「かわいいな、いい子じゃないか。レオンハルト」
「見た目はちんちくりんで可愛くても、なかなか強いぞこの女は。なんせ……イッテ!」
「余計な事言わないでください」
余計なことを口走りそうなレオンハルトの腕をこっそりとつねる。
私の推しキャラの前で変な事を言わないでほしい。
レオンハルトは小さく悲鳴をあげて、少し私から距離を取った。
その様子を見て、コーランがニヤニヤと笑いながら私達を見ている。
「なるほど、本当にしっかり手綱を握られているんだな」
「あ、いやぁ……」
「傍若無人なレオンハルトの唯一の飼い主って噂は本当だったんだな」
「そんな噂があるんですか!?」
「おぅ……あぁ、そうか。本人たちにはこういうの伝わらないか。レオンハルトが唯一セシリア嬢の言う事は聞くから、猛獣の飼い主みたいに言われてたぞ。まぁ、よっぽどレオンハルトの方がセシリア嬢に熱を上げているんだなって話だ。そんな悪い話じゃないから気にするなよ」
そう大きく口を開けて笑いながら、私の背中を軽くぽんと叩きながら話すコーラン。
いや、猛獣の飼い主と聞いてあまり良い印象はないんだけど……。
コーランの接触を嫌がり、さりげなく私を引き寄せるレオンハルト。
そんなレオンハルトの行動に私は呆れ、コーランはくすくすと笑っている。
そんな風に話をしていると、コーランの後ろからわらわらと男性達が近付いてきた。全員レオンハルト関係の友人だそうで、皆賑やかに話をしている。
私を見て、良かったなとレオンハルトに話かけて笑い合って、楽しそうだ。友人と一緒に居る時の顔のレオンハルトの顔を初めて見た。なんだか高校生の男の子みたい。あえて大人びて見せているような、でも幼さを感じさせるようなそんな顔だ。
……それにしても、王女の為のパーティだというのに、そんな事も忘れてずっと私とレオンハルトの話をしているのは良いのだろうか。
それに私に気を遣って話題を振ってくれたり、久しぶりに集まれたようなのに、少し申し訳なく感じてきた。
私は輪の中から一歩後退りし、にっこりと愛想良く微笑む。
「私は少し休憩してきますので、皆さんでゆっくりお話されてください」
「おい、一緒に行く」
「いいですよ、せっかく久しぶりにお会いになられたんだし。お話していてください。それに、王女殿下と出来たらご挨拶もしたいので」
そう言うと、レオンハルトは少し心配そうな顔をして黙ったままでいる。
私だって数は少ないけれど、パーティの経験者だ。そんなに過保護な保護者のようにならなくたって大丈夫なのに。
私はにっこりと微笑んだままお辞儀をして、レオンハルトの中心で出来た輪から去った。ようやく、会話の中心から離れられて、ふぅと少し長めの息を吐いた。
王女の近くに行き、しばらく様子を見ていたが、王女はやはりお忙しいようだ。貧乏男爵令嬢の私が近づけるような雰囲気ではない。ひっきりなしに高位貴族の方が王女へのご挨拶に入れ替わり立ち代わり、人の入っていける空気ではなかった。
先ほどの口パクで交わした挨拶が最後か、と少し残念に思いながら、バルコニーに休憩をしに向かう。
そこで三人の女性の集団に行く手を阻まれた。
「ごきげんよう、セシリア嬢」
「ごきげんよう」
挨拶をされた手前、同じようにこちらも挨拶を返す。
話したことも無いし、名前も爵位も存じ上げない。もしレオンハルトと婚約したら、こんな事も覚えて行かないといけないのか。
そんな風に考えて、婚約か……と思考が立ち止まる。先ほどの王女様と王子様のように、並んで立って……あぁ、なんだか気恥ずかしい。
目の前の女性たちよりも、頭の中はそんな事でいっぱいになっていた。
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本日は4話更新予定です。
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