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ただ隣にいたからという理由で俺様公爵の婚約者になっただけなのに、何故か溺愛されています  作者: minori


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40/50

40.マダムベルの魔法


 結局、ユリアンの言っていた”答え”とやらにはたどり着けないまま、男爵邸へと帰ってきた。

 そして、いつものように食事をして、いつものように湯船に入って、いつものようにベッドへと入る。しかし、いつものようにすっと眠る事は出来ない。

 ユリアンに言われた通り、また胸に手を当てて考えてみる。

 しかし、何かが分かる事もなく、数時間そのままにしていたと思うのだが、いつの間にかに眠ってしまっていた。


 翌朝、少しの寝不足で気だるさを感じながら、起き上がる。

 ぼうっとベッドの縁に座っていると、コンコンとノックの音が聞こえた。

 返事をすると、エマが花束を抱えて部屋へと入ってきた。


「エマ、どうしたの。それ」

「マダムベルからです。ちょうど完成したものが届いたようで。……せっかくですし、ご覧になられませんか? メッセージカードと花束も受け取っております」


 そう言うと、エマはまず私に花束とメッセージカードを渡した。

 メッセージカードには、デザイナーらしいおしゃれな筆記体でこんな風に書かれている。


『赤の似合う幸せなお二人へ』


 赤いバラとカスミソウの組み合わせの花束の中に入ったメッセージカード。

 婚約解消後に届くなんて、皮肉なものだと思いながら、部屋に埋まっていくドレスをぼうっと眺める。あの日、確かに見たデザインのドレスたちだ。

 沢山のドレスが部屋に入ってくる中、最後にひと際派手な美しい赤のドレスがやって来る。


『似合うじゃないか、やっぱり赤が似合うな。セシリアの服は赤を多めにしてくれ』


 そのドレスを見た瞬間、あの日のレオンハルトの言葉をふと思い出した。

 レオンハルトの瞳の色、赤いドレス。

 あの時より、少しは肉付きもふっくらして、今はこのドレスも似合うようになっているかもしれない。


 私はベッドから立ち上がり、赤いドレスの生地をそっと触った。

 すごく、幸せな気持ちになった。


 この赤を見て、あの時のレオンハルトの顔が目に浮かんだ。あの無邪気な顔で笑うレオンハルトを思い出すと、胸が苦しくなって自然と涙が出てきていた。

 エマが心配そうな顔をして、そっとハンカチを目に当ててくれる。

 私は花束を抱えながら、胸に手を当てて考えてみた。この胸の苦しさの理由を。涙が出てきた訳を。一つの答えがようやく見えてきた。

 私は涙を流しながら、エマに告白を始める。


「ねぇ、エマ。私、実はユリアン様が好きだったの」

「え!? そうなのですか!?」


 エマが驚いて、ハンカチから手を離してしまった。

 急いでハンカチを拾うエマの慌てた様子を初めて見て、少し笑ってしまった。エマのそんな慌てた様子を初めて見たせいか、涙も引っ込んだ。

 私は落ち着いた口調でエマに話を続ける。


「優しくて、穏やかで、善人で。一緒に居ると穏やかな気持ちになって。未来、私はそういう人と一緒になるんだと思っていたの。そういう優しくて、素敵な人と。そんな人が好きになるんだと」


 エマは静かに私の話を聞いている。


「なのに、おかしいね。今、自己中心的で、俺様で、激しくて、善人とは言い切れない男の事ばかり考えているの。このドレスを見て、すごく幸せで苦しい気持ちになるの。私、いつの間にかレオンハルトの事が好きになってしまったのかもしれない。あんな奴なのに」


 そう言うと、また涙が出てきた。

 エマは新しいハンカチを取り出して、私の涙を拭きながら優しい口調で諭すように話す。


「好きになるのに理由はないんですよ」


 私はエマを見る。エマはにっこりと笑った。


「恋はいつの間にかに落ちているものですから」


 恋に落ちる、とはよく聞くけど、こんなものなのだろうか。

 いつ好きになったとか、いつ気になるようになったとか、全く分からない。ただ、もう婚約者として恋人として会えないという事実がひどく辛いのだ。

 恋愛経験が無いからこそ、今のこの状況も心の変化の理解も追い付かない。

 私はエマに質問を重ねた。


「あんな我がままで自己中心的で自信家で人の事なんて何も考えてないような振る舞いをする奴の事、なんで好きになるの?」

「分かりませんが、少なくともレオンハルト様はずっとセシリア様の事をよく考えていらっしゃいましたよ。セシリア様の事だけを、真剣に考えていました。……それがセシリア様のご負担になっていた事もあると思いますが」


 エマはハンカチで私の涙を拭きながら、そう苦笑した。

 やはり、朝四時の山登りはエマも内心引いていたのか。私とエマは顔を見合わせると、ぷっと吹き出した。


 答えが分かった今、私にはやらねばならない事がある。

 私はエマに向き合い、微笑んだ。


「ねぇ、このドレス。着るの手伝ってくれる?」


 私の言葉にエマは期待を膨らませたような顔をして、私を見る。


「あのバカのところへ行こうと思うの」


 エマはヒマワリの花が咲いたような満開の笑顔を見せ、何度も頷いた。


「はい! はい、もちろん! たっぷりといつもより魅力的に仕上げてみせます、お任せください」


 そう言うと、早速寝間着からどんどんと着替えをし、化粧をし、みるみるうちにいつものセシリアから変わっていく。

 マダムベルの魔法とエマの手腕で私は乙女ゲームのヒロインのように美しい女性へと変身した。

 

 これで、ようやくアイツに会いに行く。エンディングを迎える時が来たのだ。

読んで頂きましてありがとうございました。

好きになった瞬間って覚えている方もいらっしゃるのでしょうか。私は覚えていないです、いつの間にかゆっくりとじっくりと心の中がいっぱいになっていきます。


良ければリアクションやブクマ、評価、感想をいただけるととっても嬉しいです!励みになります!

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